「釣り人による着船遅延事態やごみ投棄、落水事故などが重なり、ついに一部公園を除いて釣り場を失うことになってしまいました」―。春、地元の釣り愛好者から本紙にメールが届いた。苫小牧港管理組合が昨秋「釣り禁止―警察に通報」と大書きした看板、バリケードを苫小牧港・西港の各所に設置し、釣り人を岸壁から排除したことを嘆いた内容だ。道北では釣りが全面的に禁止された漁港もある。看板の反響は大きかった。警察車両が港を巡回したり、釣り人が職務質問を受けている動画までインターネットに流れた。
東港・一本防波堤の開放へ動いていた頃でもある。市内外の釣り人に「行政が釣り人を岸壁から追い出し、一本防波堤に誘導しようとしている」との見方や反発が広がった。
管理組合は「偶然、時期が重なった。釣り人とのトラブルが続き、荷役業者や船社から対策を求める声が高まった」(白川友秀業務経営課長)と説明し、誘導の思惑はないと否定した。看板設置前に実情を取材していた港湾運送業者の現場責任者は「コロナ禍で釣り人はかなり増えた。一部の人だが、船が着くからと注意をしても移動しないし、逆ギレして怒鳴る。大型トラックが荷役する所で釣りの親子が自転車遊びをしていた例もあった」と嘆いた。
貨物船の定時運航が妨げられ、荷役業者は作業が遅れるたびに船社や荷主からクレームを受ける。「規制がいいとは思わない。共存したいとは思う」ものの、マナーや危険を自覚しない振る舞いに我慢の限界という時期でもあった。
岸壁は本来、関係者以外の立ち入りは認められていない。釣り人が自己責任を主張しても、立ち入りを放置して海難、交通事故、犯罪が起きた場合、管理者は責任や賠償が問われないとは限らない。防波堤も同じだ。釣りは施設の「目的外使用」であり、管理者は釣り人の排除は可能だ。だが、それは望ましい在り方か。
港湾施設の多目的利用を研究し一本防波堤でも現地調査を行った日本大学大学院2年、ウォーターフロント都市工学研究室の小出将貴さん(24)は、釣り人の排除は結果として地域産業を支える港の持続性、活性化の「芽を摘む可能性がある」と指摘する。業者、漁業者と釣り人が共存する方策で「動線分けとエリアを定めることは必須。一部施設を多目的利用化し、その範囲で釣りを可能にすることは非常に有効」として一本防波堤の例を支持する。
併せて共存を成立させるために「子どもなど若い世代に釣り人としてのマナーを教えて”良き人材”を育てる釣り施設」を増やすことも重要と提言した。
釣りは有史前からの人の営み。多様な釣りスタイルも道具も洋の東西に固有のの文化がある。波止場の空き岸壁で釣り糸を垂れる人を一方的に排除することが、港まちのありようとして適当なのか議論が必要だ。
一本防波堤の釣り施設の取り組みを機に、釣り人のマナー向上と共存可能な港湾施設の利用について多面的な研究や試行が望まれる。
(終わり)
※川村省司が担当しました。