以前に片道40キロ強の自動車通勤をしばらく続けた時期があった。朝夕往復乗った愛車の距離計はうなぎのぼりで、登録時以来の累計9万キロを超えた。幸いなことに無事故と無違反は今も続いている。
冬は緊張する。凍結路面ならアクセルを踏み込み過ぎると危険だし、ブレーキは柔らかく数回に分けて踏むようにした。停止するべき箇所では一時停車する。発進前や走行中は右左、前後の確認を怠らない―思い付く限りの要諦を心掛けて神経を使ったが、休暇にドライブを楽しむのがささやかな趣味なので、まだまだ運転と別れたくない。
将来、「運転手」は目的地に振られた番号をダイヤル入力し、ハンドルがない車に身を託す。ハンドルとは〈自動車が生み出す最大の自由と危険のもと〉と51年前の1971年、「車の運転」をこよなく愛した英国のSF作家が短い評論「自動車、その未来」で書いた。車両操縦の行為に電子制御化が深く関わる予測の一文を載せた「J・G・バラードの千年王国ユーザーズガイド」(白揚社、2003年第1刷)を読み返すたび先見性に驚く。すでに道案内のカーナビが当たり前の昨今は100年に1度の自動車業界変革期とあって、「自動運転技術」が高度な形に進化中だ。小説家の予見は的中に近づいたのか―。
今、冬の交通安全運動は期間中。樽前山は白くなって凍結路面発生も近づいてきそう。車にまだ付いているハンドルを握って、安全運転に心しよう。(谷)