苫小牧市教育委員会主催の高齢者主張発表会が先週、開かれた。発表者は、60歳以上の市民が入れる市長生大学の学生が多い。登壇した9人の発表は、自身の病気や習慣から生い立ち、取り組んでいる活動、SDGs(持続可能な開発目標)まで多岐にわたった。南條洋さんは「死刑廃止は是か非か?」をテーマに意見を述べた。廃止または事実上廃止した国が144カ国に上る一方、日本の世論調査では約8割が死刑を容認していること、処刑の朝の死刑囚の様子―。1年間、さまざまな本を読み、新聞記事を調べたという。
廃止に対する意見は分かれるとしても、死刑制度に真摯(しんし)に向き合い、調査し、考え抜かれた発表だった。葉梨康弘法相(当時)の発言を知ったのはまさにその日。「朝、死刑のはんこを押しまして、それで昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職」。政治家の失言はいろいろあるが、今回は次元が違うと感じた。軽率とか不快とか、そんな範ちゅうではない。
法曹関係者や学者、加害者、被害者でなくても、国家が人の命を奪う究極の刑罰について、市民は深く考え、悩んでいる。あの法相に死刑執行の判断を委ねていいと思う人はいないだろう。結局は更迭したものの、瞬時にこれは駄目だと思わなかったとしたら、岸田文雄首相の感覚も疑わざるを得ない。「聞く力」とは一体、何を聞いているのだろう。(吉)