誰にでも子どもの頃にあった。雪が白い妖精のように思えた日。天井の木目が何かの顔に見えて怖くなった日。空に浮かぶ雲を花や動物になぞらえた日…。
その記憶をよみがえらせてくれるのが、「週刊新潮」の表紙絵を創刊時から四半世紀手掛けた画家谷内六郎(1921―81年)の作品。苫小牧市と縁があり、特別展が11月6日まで市美術博物館で開かれている。
展示作の多くは表紙絵で、縦画面に描かざるを得ないという縛りがさまざまな描き方を生んだ気がした。例えば海を描いた作品。横画面なら広さを楽に伝えられるが、縦画面ではそうはいかない。走る汽車を描いて煙を画面の端までなびかせたり、波打ち際を曲線で描いて遠近感を出したり、見る人の頭の中で海が広がるように工夫されている。遠近感の出し方も多様で、どの作品も宝石箱のよう。
これらが誕生したのは、がむしゃらに働くモーレツ社員という言葉が流行し、いけいけどんどんの風潮だった戦後の高度成長期。しかも、週刊新潮はひとたび表紙をめくると雑多な社会問題を伝えていた。その中で持病を抱えて会社勤めができず、家でわが子と過ごしながら絵筆を静かに握り続けた谷内氏。童心を呼び起こす絵を、どんな思いで描いていたのだろう。
時を経ても変わらないものを描いた作品は、いつまでも古びることなく輝き続ける。少年の日の心の世界に、ぜひ触れてみてほしい。(林)