数週間前のこと、懐かしい言葉がテレビから聞こえてきてうれしくなった。男性俳優が大きな口を開けておにぎりにかじりつき「食べらさる!」。確か新米の広告だ。
石垣福雄「北海道方言辞典」によると「らさる」は函館で採録された「自然にそうなる」という意味の助動詞。「見るなと言えば、なお見らさる」と用例が示されている。食べる、見る意外にも言わさる、しらさるなど、らさるの使途は広く内陸の子どもたちにとっても常用語だった。今は、ついスマホを持たさる人や、アクセルを踏まさる人、酒が飲まさる人が多い。
方言の温かみが好きだ。若い人たちの会話が共通語中心になっていくのが物足りない。辞典によれば北海道には、青森など近県からの漁業移住者が数百年前から持ち込んだ「海岸方言」と、明治以降に全国から、内陸の各地に開拓入植した人たちの持ち込んだ「内陸方言」の、大きく二つの流れがあるという。この二つが義務教育の普及もあって徐々に交じり合い、共通語化して現在の「北海道弁」の世界が出来上がったとされる。
自分は、テレビの普及で雪崩のように流れ込む共通語や関西弁を浴び続けながらも、語尾の「べ、べさ、べや」が抜け切らなかった団塊の世代。きっと今後も幼なじみらと北海道弁の世界に生きていく。簡潔で説得力が違うのだ。例えば冬季五輪の誘致。「いたましい」とか「世界が驚く、冬にしないば。」の方が実に分かりやすい。(水)