白老地方では、儀礼等の特別なときに、ルウンペと呼ばれる木綿の衣服が着用されていました。ルウンペは、複数の布を縫い合わせて製作され、木綿の古裂(ふるぎれ=古い布の端切れ)を細く切ったものが縫い付けられ、その上に刺しゅうが施されています。
北海道南西部に位置する白老町は、町内に複数のコタン(集落)がありました。現在の白老町役場付近に位置する白老コタンでは、昭和30(1955)年以降から衣服文化に関する調査研究が行われました。
ここで収集された衣服の調査や聞き取り調査などから、昭和初期までの白老コタンのルウンペは、大きく三つの特徴に分けることができました。(1)細長いテープ状の布を縫い付けた直線的な模様が多用されている衣服(2)背中と裾に赤い布で切り抜いた模様が施されている衣服(3)幅広の白い布を全体的に切り抜いた模様が施されている衣服。
この衣服の分類は、おおよそ家系単位で分けることができ、(1)と(2)の衣服が「白老コタンに古くから伝わる家系と関連するルウンペ」、(3)の衣服が「日高地方から白老コタンへ移住してきた家系と関連するルウンペ」となります。
これまで筆者が行った聞き取り調査で、(3)が日高地方から来た家系が作った衣服だということが新しく判明しました。
従来考えられてきた「白老地方の伝統的な衣服」とは、伝統的な衣服文化に明治以降に生じた人の移動に伴い、他地域の衣服文化が加わったことでつくられたルウンペである、と推測されます。
国立アイヌ民族博物館で白老のアイヌの衣服の変遷を紹介する展示会を開いていますので、ぜひご覧ください。
(文=国立アイヌ民族博物館学芸主査・八幡巴絵。写真=同研究員・赤田昌倫)
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民族共生象徴空間(ウポポイ)・国立アイヌ民族博物館(白老町)のテーマ展「白老の衣服文化」は5月15日まで。観覧料はウポポイ入場料(大人1200円、高校生600円、中学生以下無料)に含まれる。月曜休館(5月2日は開館)。