「アジアの時間はゆるやかに流れる」 内山安雄の取材ノート

  • 内山安雄取材ノート, 特集
  • 2022年2月25日

 海外旅行がなかなかむずかしいご時世なので、コロナ禍に見舞われる直前の、のんびりした話を一つ。

 この私、インドネシアで在留邦人を対象にした講演会をやらせてもらった。主催したのは、現地で長らく事業を営んでいる日本人の親睦団体だ。その幹事を務める丸石クンが、私を講師として指名してくれたのだ。丸石クンと私は大学時代の同級生で、現地でも日本でもしばしば会って旧交を温めている。

 ”どうやって作家の私は96の国々を渡り歩いてきたのか”

 それが私に与えられた得意の演題だ。首都ジャカルタの有名なホールの講堂で、思いがけない大聴衆を前に講演を始める。友情にあつい丸石クンが、私に恥をかかせまいとして、人をかき集めてくれたのだろう。

 講演時間は60分。壇上で大いに調子づいてしゃべっているうちに、ふと時計を忘れてきたことに気づく。だが案ずることはない。気のおけない仲の丸石クンのことだ。講演の終了時間がきたら、きっといつもの大きな声を張り上げてくれるはずだ。

 「ウチヤマ、面白いけど時間だ!」「もう時間だから締めに入れ!」「残念ながらこれにてタイムオーバー!」

 とかなんとか注意してくれると思いきや、いつまでたっても声がかからない。さらに調子に乗って気持ちよく話をしていると――。

 主催者の日本人男性が、私の後ろにしのびより、そっと紙切れを差し出してきた。

 「30分も時間オーバーです。このあとに控える祝賀パーティーの時間に食いこんでいます」

 ヒエエエエ~! しどろもどろで大失態の講演会を終了する。同じようなドジを日本でも踏んでいる。冷や汗ものである。

 友よ、丸石クンよ、なぜ制止してくれなかったのか? その丸石クン、なんと会場にきていないというではないか。

 急いで電話をかけて、当人に聞いてみれば――。

 「ごめんな。今日(きょう)のこと、すっかり忘れていたよ」

 講演会のあとの予定を大幅に狂わせ、皆さんにはおおいに迷惑をかけてしまった。

 穴があったら入りたい気分でいたところ、主催者の代表いわく。

 「時間のことなんて気にしないで。なんたって、ここはアジアなんだから」

 なるほど、丸石クンにしても在留邦人の方々にしても、何かにつけてのんびりムード、いかにもアジアらしくていいな、と思う。

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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