(7) ゼロカーボンシティ宣言 最先端事業進行生かし 拠点化へ地域一丸で挑戦

  • 2021この一年, 特集
  • 2021年12月20日
CCSの実証実験プラント。苫小牧でゼロカーボンの機運が高まる

  「市民や地域、事業者と一体となって連携、協働しながら挑戦する」―。岩倉博文苫小牧市長は8月24日、2050年までに二酸化炭素(CO2)の実質排出量ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」宣言を高らかに行った。道内では札幌市や釧路市などの後追いになる宣言だが、苫小牧市には地元で国の事業が着実に進む地の利がある。

   苫小牧は地域一丸の機運を高めることで、脱炭素社会実現に向けた最先端の動きを取り込んできた。08年に国による国内初の大規模プロジェクト、CCS(工場や発電所などで発生するCO2を分離、回収し、地中に圧入、貯留する技術)に向けた地質調査が始まると、10年には官民の「苫小牧CCS促進協議会」が発足。12年から日本CCS調査(JCCS)が実証試験を展開し、19年11月には目標のCO2圧入量30万トンを達成した。

   これらの成果が実を結ぶよう今年、新たな事業が続々と立ち上がった。目玉はCCSに有効利用の「U」を加えたCCUS拠点化実証事業で、JCCSなど大手4企業・団体が21~26年度の長期計画で、液化CO2の長距離輸送に臨む。石油資源開発とデロイトトーマツコンサルティング合同会社は9月、苫小牧産業間連携検討会議を設置し、官民でカーボンリサイクル拠点化への議論を深めている。

   苫小牧やその周辺はエネルギーの供給拠点でもあり、市内のCO2年間排出量は推計500万トン規模に達する。化石燃料を大量に使う事業所にとって、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガスの排出ゼロ)実現は、今後の行方を大きく左右する。北海道電力は厚真町の苫東厚真発電所で、CCUSの社会実装に向けた調査をスタート。本道唯一の製油所を抱える出光興産も、東芝などとCO2由来ジェット燃料の商用化を急ぐ。生き残りを懸けたピンチを新たなビジネスチャンスの創出に変え、環境と経済の好循環に向けて意欲的に取り組む。

   官民のダイナミックな事業展開を受け、「CCS促進協議会」は20、21年と相次いで改組を決行。10月からは「CCUS・ゼロカーボン推進協議会」として、会員、オブザーバー併せて約80企業・団体・個人が三つの部会を設け、分野ごとの事業展開を模索している。岩倉市長も新組織発足は「スタートではなく通過点。30年、50年に向けた地球規模の課題、ゼロカーボンを発信していく」と強調。全市を挙げた脱炭素への挑戦が続く。(金子勝俊)

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