新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の在り方をめぐり、政府の動向が揺れている。岸田文雄首相が2回目終了後からの接種間隔を「できる限り短縮する」との方針を示す傍ら、後藤茂之厚生労働相が「全国民の一律前倒しは不可能」と発言するなど朝令暮改の様相も見せている。新変異株オミクロン株への備えで対応を急ぐのは当然だが、そもそも前倒し接種は容易に実現できるものなのか―。苫小牧市の現状から検証する。
3回目接種は12月1日に始まった。2回目終了後おおむね8カ月以上経過した18歳以上が対象のため、12月と来年1月は医療従事者に接種し、同2月から一般市民が加わる。接種対象者は、12月が約1600人、来年1月が約4000人、同2月以降は月2万1000人前後を予定している。
市は対象者が接種可能になる日の前月をめどに、接種券を順次発送しているが、市に接種分ワクチンが届いているか、国の配送予定が明確なことも条件。夏に国のワクチン供給が一時滞り、他自治体で混乱を生じたことが念頭にある。現時点で市内には来年3月末まで、5万人弱分のワクチンが届く見通しだが、前倒し接種の実現には、国が追加分の配送量を明確にすることが最低条件になる。
接種券は現在、接種時期を迎えた市民に自動的に送っているが、仮に前倒し接種で職種や年齢などの条件が付された場合、対象者の抽出やそのチェックなどに、膨大な事務作業が追加される見通し。ワクチンがいつ、どのぐらい来るか、分からなければ準備を始められない上、作業量は増える可能性もある。
さらに一般市民で最初に3回目接種を迎える同2月分は、前倒しが事実上不可能だ。2回目終了から6カ月で打つには、今月から始めなければならないのに加え、接種券の発送が年末年始の年賀状配達繁忙期と重なる。国が急転直下で方針を決めても、自治体はもちろん郵便局への負担も大きい。
同3月分以降を一律で前倒しした場合は、1カ月当たりの対象者は4万人超と倍増する。市は3回目を医療機関の個別接種とする体制を構築中で、初回接種時は月最大4万4000人への対応能力があったため単純計算では受け入れ可能。ただ、将来の定期接種化も視野に入れた持続可能な対応が目的で、一時的な負担増には別途調整が必要になる。
市健康支援課は「(3回目接種の)国の通知が出され次第、市医師会などとも協議しながらスムーズに接種できるよう取り組みたい」と冷静に受け止めるが、「ワクチンの配送量や(前倒し接種の)対象条件などを早く示してほしい」と願っている。