ウポポイができて(3) 謝罪から始まる共生 過去の政策で深い悲しみ 苦難強いた歴史を正しく伝えるべき

  • ウポポイができて, 特集
  • 2021年7月28日
ウポポイの体験交流ホールで開かれた開業1周年記念セレモニー。関係者ら約200人が集まった=7月17日

  7月17日、民族共生象徴空間(ウポポイ)で開かれた開業1周年記念セレモニー。関係者約200人が集まった会場で、政府のアイヌ政策推進本部長を務める加藤勝信官房長官らがアイヌ文化復興の取り組みに一層力を入れる姿勢を示した。

   新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2度の延期を経て昨年7月12日に開業したウポポイ。コロナ禍で入場制限を続けながらも1年間で約26万人が来場する実績を上げた。式典に参加した平取町二風谷のアイヌ文化伝承者貝澤耕一さん(75)は、関係者のあいさつに何か釈然としなかった。加藤官房長官らが口にした「アイヌの歴史と文化の国民理解を促進する」という言葉に違和感を抱き、「ウポポイは歴史を正しく伝えているとでも言うのか」と反論したくなったという。

   近代以降、強い軍事力を持つ国家が先住民族の土地を奪い、文化を破壊する植民地支配が地球の至る所で起きた。アイヌ民族も明治政府に同じ目に遭った。政府はアイヌモシリ(人間の静かなる大地)=北海道=を日本の領土に組み入れ、伝統の営みを劣った文化と決めつけて禁止した。生活基盤の土地を失ったアイヌの暮らしは困窮し、同化政策でアイヌ語も消滅寸前に追い込まれた。少数民族であるがゆえの差別にも苦しめられ、民族としての自尊心を無くしていった。

   アイヌ民族文化財団(札幌市)の評議員も務める貝澤さんは、ウポポイがそうした苦難の歩みを十分に発信していないと感じている。「国の誤った政策でアイヌが今の状況になっている。その大事な部分の説明があいまいだ」と言う。「文化の復興、民族の尊厳回復をうたうならば、ウポポイは歴史的経緯に基づき、国の反省を土台に運営しなければ、アイヌの支持は得られない」と話した。

   アイヌ民族の血を引く研究者で、北海道大学アイヌ・先住民研究センターの北原モコットゥナシ准教授も同様の意見だ。7月15日、白老町で開かれた北海道博物館大会で報告者を務めた北原准教授は「ウポポイではソフトな表現が使われ、先住民族をめぐる問題が見えにくくなっている」とし、「アイヌ文化とアイヌ民族を切り離して発信してはいけない」と指摘した。

   2008年、衆参両院が採択した「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」に基づき、政府が設置した「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」。09年に出された報告書には、歴史的経過を踏まえ、国にはアイヌ文化復興への強い責任がある―と明記した。ウポポイは、民族共生象徴空間の必要性を示した報告書を基に整備された。だが、パンフレットを見ても「国の責任」といった表現は見当たらない。それもそのはず、国はそもそもアイヌ民族に対し、過去の政策で深い悲しみを負わせたことを謝っていないからだ。

   アメリカやオーストラリア、カナダ、台湾などは過去の同化政策や不平等について先住民族へ謝罪し、権利の回復を進めている。だが、日本はそうしていない。アイヌを先住民族に位置付けたアイヌ施策推進法(19年施行)も、アイヌ民族が求めていた土地・資源利用などの先住権保障を盛り込まなかった。

   ウポポイ整備に関わった北海道アイヌ協会前理事長の加藤忠さん(81)=現同協会常務理事、白老町在住=はどう考えているのか聞いた。加藤さんは3月、首相官邸で加藤官房長官と面会した際、国としてアイヌ民族へ謝罪するよう求めた。「世界は先住民族に謝っている。政府もアイヌに苦難を強いた歴史を直視すべきだし、ウポポイは国民にしっかり伝えることが重要だ」。民族共生への道は、そこから始まるという。

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