コイノボリ大火が発生した時、消防組には消火設備として1919(大正8)年に購入した最新鋭の飛行機式12馬力ガソリンポンプ1台と、腕用ポンプ3台があった。しかし、ガソリンポンプは分解整備中で使えなかったという逸話が残されている(今回の展示準備中に、王子製紙の消防組が所持するガソリンポンプで消火活動を行っていたことが判明した)。
ガソリンポンプとは、江戸時代の龍吐水(りゅうどすい)、明治時代の腕用ポンプ、蒸気ポンプに続く消火道具である。水槽に付けてエンジンを掛ければ直ちに放水できることが特徴で、性能がよく軽便であったため、大正時代に全国の地方の消防組を中心に広まっていった。
コイノボリ大火が起こる数年前、川合村消防組組頭と池田火災予防組合長(現在の十勝管内池田町川合の消防組織か)から、苫小牧消防組に対してガソリンポンプに関する問い合わせがあった。
質問の内容は「ガソリンポンプは時々機械に故障を生じて、成績不良であると評判だが、実際のところはどうなのか、使用したことがある苫小牧消防組の意見を聞きたい」。これに対して、小保方組頭は「確かなことは言えないが、機械は故障しない限りはとても有功である。機械はそもそも故障するもので、取り扱う者が注意を払えば有功」と回答していた。
ガソリンポンプの効果と整備の大切さの両方を理解していただけに、肝心なときに威力を発揮できなかったのは何とも不運であった。
(苫小牧市美術博物館学芸員 佐藤麻莉)