東胆振から第62次南極地域観測隊(2020年11月~2022年3月)に参加している元小学校教員柴田和宏さん(46)=苫小牧市澄川町=と元航空自衛隊員久保木学さん(55)=安平町早来。柴田さんから昭和基地での暮らしをつづったリポートの3回目が届いた。柴田さんによる寄稿は今回が最後で、テーマは汚水・廃棄物処理。 (随時掲載)
私の連載の最後は汚水・廃棄物処理についてのお話です。私たちは水や電気、食材、製品などさまざまな生産者のおかげで豊かに暮らすことができます。けれど、消費の先にある「処理をしてくれる人」に思いを寄せることがあまりなかったことに、南極に来て気づかされました。
「水の使い過ぎに注意しましょう」と聞いたら、多くの人は水資源を大切にすることをイメージするでしょう。極寒の地南極において、水資源は貴重です。しかし、水資源を大切にすることと同じくらい、汚水処理能力を超えないように使用することもこちらの生活では大切です。昭和基地の越冬中は、1日におよそ1万2000リットルの生活排水が生まれます。
昭和基地の汚水処理施設の能力は1日に1万2000リットルほど。毎日ぎりぎりの状況です。もしも処理能力を超える量の生活排水が数日にわたって続くと処理が追い付かなくなり、入浴や洗濯禁止などの措置を取ることになります。生きていく上では問題はありませんが、生活の快適性は大きく損なわれます。そうならないために、汚水処理を担当する隊員は日々汚水処理装置の制御盤をチェックし、変化や異常に迅速に対応できるように努めてくれています。
廃棄物処理も同様です。毎月1~2トン排出されるごみは、すべて日本に持ち帰るのがルールです。昭和基地では、生ごみなどを炭にすることで、かさを減らして持ち帰っています。基地に設置されている炭化装置は50キロのごみを4キロの炭に変えることができます。処理にかかる時間は約9時間。基地主要部から離れた位置に廃棄物処理施設があるため、ブリザードが続くとその作業は数日にわたって止まってしまいます。
ブリザードが数日続くと、その後が大変です。廃棄物処理施設の建物内の気温は外気温とほぼ同じ。ここ最近は氷点下20度を下回ることも多く、じっとしていると寒くてたまりません。しかし、体を動かしての作業になるため、防寒着を着ていると暑いくらいだそうです。そこからもなかなかの重労働であることがうかがえます。
汚水処理と廃棄物処理はすべて1人の隊員が行っています。日本で暮らしていた頃、ごみはごみステーションに出せばおしまい。水は排水口から流れていけばおしまい。その先でどのような人がどんな仕事をしているのか考えることはあまりありませんでした。けれど、仲間が1人で処理を行っていることを考えると、処理する人のことを考え、自分ができることはやろうと思えてくるのです。
南極での越冬生活は、家庭生活のようでもあり、小さな社会を営むようでもあります。順調に物事が進めば「おかげさま」と感謝し、うまくいかないことがあれば「おたがいさま」と助け合う。日本のような巨大な社会ではその思いをくまなく巡らせるのは難しいことかもしれません。けれど、互いの顔が見える31人の小さな社会では「おかげさま」と「おたがいさま」の心をもって日々過ごすことがとても大切なのだと感じます。