11 染織品の科学分析 色が持つ意味と役割

  • イコロ 資料に見る素材と技, 特集
  • 2021年5月8日
シキナ(ガマ)コーナーでの展示風景
シキナ(ガマ)コーナーでの展示風景
染料などの色の材料を調べるハイパースペクトルカメラ
染料などの色の材料を調べるハイパースペクトルカメラ

  アイヌにおいて物を染めることは、さまざまな色で美しく見せることだけでなく、色が持つ意味や役割を考慮して行われていたと考えられている。赤色には魔除けとしての意味があり、裾や袖口に赤色布が用いられることがあった。黄色は格式の高い色であり、祭事などに使用されていた。

   このようにアイヌの暮らしの中で物に色を付けるという行為は、重要な意図の下で行われることであり、同時に何の材料を使っていたのかと密接に係ることである。染織品を分析し、染料の種類が明らかになることは、染織品に込められた製作者の意図の理解や、地域的な植物利用の解明などにもつながる可能性があり、重要な研究テーマである。

   国立アイヌ民族博物館では、染料などの色の材料を調べる機器としてハイパースペクトルカメラを導入している。この装置はカメラで撮影した範囲を一度に分析することが可能で、非破壊非接触でありながら広範囲を短時間で調査ができるようになった。

   この装置による染織品の分析では、染料の基準データ(スペクトル)と、調査したい部位のスペクトルを比較し、最も酷似するものを探し出す。しかし、同じ色系統の染料の中には、基となる材料が異なっていてもスペクトルは似ていることがあり、単純比較による特定は困難なケースもある。そこでスペクトルが類似する染料について詳細な分析を行い、多くのデータを収集し、その中からわずかな違いを見つけ出して区別化する研究に取り組んでいる。

   博物館で開催中のイコロ展では、スペクトルが似ているイチイ染めとハンノキ染めについて基準試料を作製し、これらの試料を用いて二つの染料を区別化する取り組みについてシキナ(ガマ)コーナーでパネル展示を行っている。アイヌの染色と、その分析調査の研究について興味を持っていただければ幸いである。

   (国立アイヌ民族博物館・赤田昌倫研究員)

   ※白老町の国立アイヌ民族博物館・収蔵資料展「イコロ―資料にみる素材と技」は23日まで開催。

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