楽しく・やさしいアイヌ語教室 「金成マツ筆録ウエペケレ研究」刊行 知里ハツ口述5話翻訳  白老

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  • 2021年4月12日
刊行したウエペケレ研究の本を手にする大須賀るえ子さん
刊行したウエペケレ研究の本を手にする大須賀るえ子さん
金成マツが知里ハツ口述ウエペケレを筆録した原文のコピー
金成マツが知里ハツ口述ウエペケレを筆録した原文のコピー

  白老町の白老楽しく・やさしいアイヌ語教室は、「金成マツ筆録・知里ハツ口述ウエペケレ5話の研究」を刊行した。登別出身の口承文芸伝承者・金成マツ(1875~1961年)が昭和初期、同郷の知里ハツ(1879~1959年)のアイヌ語口述のウエペケレ(昔話)を筆録したローマ字原文を解読し、翻訳した。同教室代表の大須賀るえ子さん(80)は「アイヌ文学の魅力を広く伝えたい」としている。

   金成マツは、アイヌ民族の物語を初めて文字化した「アイヌ神謡集」の著者・知里幸恵(1903~22年)と、アイヌ語学者として知られる知里真志保(1909~61年)の叔母。ユーカラ(英雄叙事詩)などアイヌ語の口承文芸をローマ字筆記体で書き残す活動に取り組み、「アイヌ叙事詩ユーカラ集」(1959年)を出した。語り部の口述などを筆録したユーカラ100編は、研究者による翻訳が続けられたものの、160編のウエペケレについては未訳のままとなっていた。このため、同教室が翻訳して世に出すことを決意。道立図書館所蔵(マイクロフィルム)の肉筆原文をコピーで取り寄せ、日本語に訳す作業を2019年度に開始し、昨年春に「盤木アシンナン口述ウエペケレ8話の研究」を発行した。

   第2弾の研究は、マツの親戚筋に当たる知里ハツが口述したウエペケレ5話とした。マツが1941年に筆録を取りまとめたもので、大須賀さんら教室メンバー7人が昨年4月から原文解読に挑み、今年2月末までに翻訳。公益財団法人アイヌ民族文化財団(札幌)の助成で製本した。

   アイヌ語のローマ字表記とカタカナ表記、日本語訳を載せたウエペケレ5話の題名は「私の父は唄ばかりを歌って私を育てた」「十勝村の水源のミズナラの大木のてっぺんにカワガラスの神が宝をくわえているとうわさを聞いた」「ウラシベツの奥様が銀の玉、金の玉を局所に隠す」「悪伯父が我を山猟に行かせる」「黄金のとっくりの食事」。親から子へと代々語り継いだ昔話だ。

   刊行した本は、B5判195ページで200部印刷。町内の小中高校や町立図書館などに寄贈した。大須賀さんは「神と人間が密接に関わり合う日常を物語にしたアイヌ文学は面白く奥深い。今後も金成マツが筆録した未発表の口承文芸を解読し、その価値と魅力を多くの人に知ってもらいたい」と話す。同教室は2004年以降、口承文芸やアイヌ語方言などの研究成果をまとめた本の出版を続け、今回で通算17巻目となる。

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