本来は渡り鳥であるオオハクチョウ。だが、けがなどで渡りを諦め、苫小牧に居残ったオオハクチョウが何カ所かで確認されている。苫小牧川もそのうちの一つで、羽が傷ついたオオハクチョウが3、4羽居着き、中には春に繁殖するペアもいて、付近の人たちが毎年かわいらしいひな鳥の誕生を心待ちにしている。
見山町でそば店を営み、カメラマンでもある綱島正人さん(71)もその一人。昨春はカメラを携えて苫小牧川へ通った。「ハクチョウがひなをかえしているのは以前から知っていた。健康のために自転車に乗り始め、毎日川の縁を走っているうちに興味が高まり、観察することにしたんです」
昨年、オオハクチョウの夫婦が巣作りをしているのを最初に見つけたのは3月25日。同31日、驚かさないように物陰からそっとのぞくと数個の卵を確認できた。ひな誕生への期待はいよいよ高まり「カラスやカモメが来たり、長雨が続いて川の水位が高くなったりしてハラハラしながら、毎日楽しみにしていました」 ところが5月5日、卵とハクチョウはその巣から姿を消していた。「外敵に襲われ、かえったばかりのひなを連れて逃げたのかと、上流を探したけれど、どこにもいなかったんです」と残念そうな綱島さん。それでも「今年こそ子育てを見届けたい」と期待を寄せる。
周辺住民のアイドルとして注目を集めるオオハクチョウ。中にはふびんに思って餌を与える人もいるが「水草や落ち穂などを食べるハクチョウにとって、パンなど人の食べ物は内臓に負担がかかり望ましくない」(ネイチャーセンター)という。静かに暮らすオオハクチョウを、少し距離を取りながらそっと見守りたい。 (S)
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