▶11「イタオマチプ」  アイヌの先人たち 遠くは大陸へ航海

  • チキサニ通信, 特集
  • 2020年10月12日
しらおいイオル事務所チキサニで常設展示しているイタオマチプ。大きさは全長7.42メートル、全幅0.75メートル、全高0.77メートル

  イランカラプテ(こんにちは)。ふと、目の前にぼう漠と広がる海を眺めていると、海の向こうにいったいどのような世界が広がっているのか?。渡り鳥の季節になると必ず渡って来るのを見て、きっと海の向こうに自分の知らない世界があるに違いない。だから海を渡り、それを見てやろう!。そうして太古の昔から人類は英知を結集し海に挑んできたことでしょう。 アイヌ民族はかつて、カツラやセンノキなどの丸太で作り上げた丸木舟に、シナノキやツルウメモドキの内皮で作った縄でとじた波よけ板を取り付けたイタオマチプ(板つづり舟)を使用していました。イタオマチプは大型のござを帆に用い、両舷の船べりに設けた支点からかいで水をかき、舟を進める車櫂(くるまがい)によって航行します。白老では夏になると暖流に乗って、クジラやマグロ、メカジキやマンボウなど大型魚や海獣が回遊し、それらを追って、昭和の初め頃までアイヌ民族の伝統的な漁でイタオマチプが活躍しました。他にも交易(アイヌ語でウイマム)のため、本州はもちろん、樺太や千島列島、遠くは大陸まで渡ったとされています。

   8月にしらおいイオル事務所チキサニは、白老町内の社台小でイタオマチプの修復作業を行いました。内容は2011年にイオル再生事業で復元制作されたイタオマチプを再び縄でつづり直す作業です。カツラの原木で作られた丸木舟と波よけ板の双方にとじる縄を通すために開けられた無数の穴を見ていると、私が大学時代に研究対象とした仏領ポリネシアの大型カヌーを思い出します。18世紀にヨーロッパ人が到来する以前のポリネシアには鉄製品が一切なく、石の手おのを使って作られた大型カヌーは大きさや形状の違いがあるにせよ、イタオマチプと同様に、丸木舟と波よけの板を縄でとじた構造です。縄を通した穴や隙間に防水対策として、アイヌ民族のイタオマチプではコケを詰めたように、ポリネシアでは植物のヤニやサンゴをセメント状にしたものを詰めたといいます。場所は違えど、身の回りの自然を利用する知恵は同じで、航海に耐え得る船と航海術によって大海原へ乗り出していった先人のドラマが私の頭の中を駆け巡ります。

   (しらおいイオル事務所チキサニ・森洋輔学芸員)

  〈おわり〉

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