「胆振管内在住と言われているが、苫小牧市内で感染が確認された」―。2月22日午後6時から苫小牧市役所で開かれた記者会見で、岩倉博文市長はそう切り出した。市内で新型コロナウイルスの感染が初めて判明した瞬間だった。
これに先立ち、道が胆振管内で初の感染者が出たことを公表していたが、自治体名を明かすことはなかった。市長は「患者の意思が前提」としつつ、感染者情報は「できるだけ明確にすべき」が持論。積極的な情報発信にかじを切った。
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2月17日に道は情報の公表基準を見直し、居住地の公表を「振興局単位」としたばかりだった。14日に道内居住者初の感染を公表したが、国籍すら非公表として批判を浴びたためだが、この基準でさえ当初から揺れていた。渡島管内七飯町の町議が感染した事例は、19日に道が「渡島管内の60代男性」としていたが、翌日に道が同町の発表を後追いするように公表した。さらに独自の保健所を持っている札幌市は、すでに市の判断として居住地を公表していた。
胆振管内で初の感染者判明、しかも2人確認されたのは、そんな中だった。市長は公務を切り上げて市役所に入り、22日午後4時半から全部署の市幹部と対策本部会議に臨んだ。感染者情報の扱いも焦点の一つだったが、市長がトップダウンで決断した。2人は道内9例目と15例目の感染者。コロナ感染が広がり始めた初期段階で、市長は「胆振のどこから出たのか、分からない方が市民は不安」と考えた。保健所を通して感染者本人の同意も得られ、市の判断として公表することになった。
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会議後の会見は感染者情報に質疑が集中した。道が「10代、学生」とのみ公表していたためだ。仮に感染者が学校で不特定多数と接触していれば、感染が拡大する危険性は高くなる。市長は答えに一瞬だけ間を置いたが「高校生で最後の年(3年生)」と述べ、さらに「学校には幸い行っていなかったので校内感染は心配していない」と踏み込んで情報提供した。
「10代、学生」との発表にとどまれば、市内の学校全般に不安が広がるのは必至。感染予防を呼び掛ける上でも居住地を苫小牧と明かさなければ、市民は人ごとのように受け止めたかもしれない。市の幹部の一人は「市長だから踏み込んで言えることもある」と政治家としての決断を理解する。
一方、会見は一部報道機関がインターネット中継をしたこともあり、終了後から市に問い合わせが殺到した。「どこの学校なのか」「もっと情報がほしい」などと、感染者情報のさらなる開示を求める声が相次いだ。市はインターネット交流サイト(SNS)での誹謗(ひぼう)中傷や憶測、うわさの拡散を慎み、正しい理解と予防の徹底を呼び掛けたが、心ない個人特定の動きは続いた。憶測を暴走させないためにぎりぎりの範囲で行われた公表も、一部市民の要求はとどまることがなかった。
(コロナ検証班)