白老 ウポポイ開業1カ月 来場3万5000人 博物館4割見学せず 入館制限の影響か  

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  • 2020年8月12日
開業から1カ月で3万5000人超が来場したウポポイ

  国がアイヌ文化の復興と発信の拠点として白老町のポロト湖畔に整備した民族共生象徴空間(ウポポイ)は、12日で開業1カ月を迎えた。アイヌ民族をテーマにした初の国立博物館を中核とした施設の来場者は、10日までに3万5000人を超え、先住民族アイヌへの理解を促す役割に期待が高まる。だが、同化政策で失った文化の復興と、それを担う人材育成の面などで課題も浮上している。

   4割が博物館見学せず

   ウポポイは1万点の資料を所蔵するアイヌ民族博物館、古式舞踊などの公演や体験施設を配置した民族共生公園、全国の大学に研究目的で保管されていたアイヌ民族の遺骨を収めた慰霊施設で構成。新型コロナウイルス感染拡大の影響で当初予定より2カ月半遅れて7月12日にオープンした。管理運営するアイヌ民族文化財団によると、開業から今月10日までの約1カ月(営業26日間)の入場者数は3万5409人。平均で平日1000人、土日祝日1800人を数えた。同財団はコロナ対策で入場を基本的にインターネットによる事前予約制とし平日2000人、土日祝日2500人の制限を設定。開業後、いずれの日も上限枠を下回ったが、「コロナ流行の情勢下としてはいいスタートが切れた」と對馬一修運営本部長は受け止める。

   しかし、問題も起きている。ウポポイの中に入っても、メイン施設の博物館を見ずに帰る人が多いことだ。10日までの集計で入館者は2万1528人。残り1万3881人は見学しておらず、実にウポポイ入場者全体の4割に上る。コロナ対策で博物館は1時間ごとに100人程度しか受け入れていないため、予約時に見学時間の調整が付かなかったり、当日券で入場しても博物館に入れなかったりする人が多いと推察される。

   ウポポイの第一の意義は、アイヌ民族への国民理解を促し共生社会を目指すことにある。博物館の入館制限は感染防止の観点からやむを得ない措置だが、新型コロナは資料展示を通じ同化政策や差別の歴史、価値ある文化を伝える活動にも影を落としている。

   人材育成に課題

   ウポポイは特に明治以降の同化政策で途絶えた文化を振興し、継承する人材の育成も役割とする。アイヌ語は国連教育科学文化機関(ユネスコ)に消滅危機言語として分類され、道内各地の伝統文化保存会メンバーも高齢化している中で、アイヌ文化の存立が危機的状況にあるからだ。

   だが、復興と伝承を促す使命をうまく果たしているとは言い難い。若い職員らは古式舞踊など来場者へのプログラム提供に追われ、伝統文化を幅広く学ぶ余力を持たない。ウポポイで今、伝統家屋チセの復元作業が進められているが、建設に関わる職員もごくわずかだ。内部関係者は「人員体制の余裕の無さが多様な文化の知識、技術会得の妨げになっている」と明かす。

   アイヌ民族にとって重要な儀礼の継承についても課題を抱える。「国の管理下でカムイノミを行うこともたやすくない」と語る関係者もいる。ウポポイの前身で民間の旧アイヌ民族博物館は毎月、白老のしきたりでカムイノミを行い、夏に先祖供養の儀礼シンヌラッパも続けるなど、カムイ(神)とつながる精神文化を守ってきた。アイヌ文化の集大成イオマンテ(熊の霊送り)も復活させ、職員の文化伝承の力と心を育んだ。だが、民間と異なる国立施設の自由度の低さが、伝統を未来につなぐウポポイの本質的な役目を難しくさせている。

   同化施策で失った土地や資源の所有権など「先住権」議論を将来進める上でも、先住民族アイヌの存在と文化への国民理解が前提となる。同財団の常本照樹理事長は「職員が観光の対応に忙しいというならば、人を増やすなりし、民族共生社会の実現という本来の目的を達成するために問題を一つ一つつぶしていくことを考えたい」と言う。

   オープンから1カ月を経て浮かび上がってきた課題にどう向き合うか。文化復興・発信のナショナルセンター開設を成功に導くためには、国や財団の姿勢が問われている。

    (白老支局・下川原毅)

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