イランカラプテ(こんにちは)。季節は本格的な夏を迎え、新型コロナウイルスへの配慮が引き続き必要とされる中、癒やしや非日常を求めて自然の中でゆったりとアウトドアライフ、特にキャンプへ出掛ける方もいらっしゃることでしょう。キャンプ道具として、まず思い浮かべるものにテントがあります。現代では素材や形状、大きさなどさまざまで、その種類の多さ、便利さに驚かされます。
さて、アイヌ民族もかつて、アイヌ語で「クチャ」と呼ばれる仮小屋を作っていました。それは漁や狩猟、採集の際に短期間滞在し、寝泊まりするために作る小屋で、その役割は現代のテントと同じと言えるでしょう。ただ、テントと大きく違うところは、持ち運んで組み立てるのではなく、「自然」を利用するという点です。
例えば、かつて夏の川漁で使われたクチャはまず、設置場所として漁場に近く、増水しても浸水しない小高い場所を選びました。材料は周辺で集めることのできる流木をはじめ、カワヤナギやイタドリ、フキなどを使用します。骨組みはカワヤナギや流木、イタドリを利用し、ヤマブドウのツルやカワヤナギの皮で縛って接合します。屋根はフキの葉を使い、一方だけに傾斜した片流れ小屋とし、フキの葉を骨組みの横木の下段から上段へと重ねるようにして隙間なく配置します。イタドリで上から固定するので雨漏りすることもありません。
このように、クチャの材料は現地調達し、マキリ(小刀)とタシロ(山刀)の道具があれば作れるので、テントのような重い荷物を携帯する必要がありません。
クチャの材料や形状は季節によって大きく変わります。しらおいイオル事務所チキサニ(白老町末広)では、昨年2月と9月にそれぞれ「山のイオル体験」を開催し、冬と秋で形状も材料も異なるクチャ作り体験を行いました。昨年2月の体験行事では、冬でも葉の落ちないトドマツやエゾマツを材料に、アイヌ民族が冬の山猟で使用した円すい形のクチャ「フプチャチセ」を作りました。それに対して昨年9月の体験行事では、カワヤナギとイタドリを骨組みに使用し、ササで屋根をふき、両手で拝むような形をした「拝み小屋」のクチャを製作しました。
いずれにしても、雪崩やヒグマの通り道を避けるなどクチャを建てる場所をはじめ、材料や形状、組み立て方はアイヌ民族の知恵が生かされます。使われなくなると、自然に朽ちて土に返ることになります。アウトドア派のあなたへ、「自然」をカムイ(神)と捉えるアイヌ民族の精神性を学び、そろそろテントを卒業してクチャにしませんか?
(しらおいイオル事務所チキサニ・森洋輔学芸員)
※毎月第2・第4月曜日に掲載します。