8月の祈り

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  • 2020年8月7日

  水色の空に、絵筆でサッと描いたような白い雲が浮かぶ。8月に入り、札幌は一気に気温が上昇して暑くなった。大通公園でミニビアガーデンが始まり、チカホでは4万本の本道の花を展示するイベントも開催。コロナ禍で感染拡大を警戒しつつも、少しずつ「日常」が動き始めている。

   日が落ちても気温があまり下がらず寝苦しい夜に、故野坂昭如さんが書いた「戦争童話集」(中公文庫)を読んだ。野坂さんの作品ではスタジオジブリが映画化した「火垂るの墓」が有名だが、この本にも鎮魂の作品の数々が並ぶ。

   いずれも「昭和二十年八月十五日」から童話が始まる。「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話」や「青いオウムと痩せた男の子の話」、「赤とんぼと、あぶら虫」、「焼跡の、お菓子の木」―など12の短編が収められる。

   空襲の後は、いつも強い風が吹き荒れます。お母さんの体は風に吹き起こされて、ふわっととびました―。「凧(たこ)になったお母さん」では、激しい空襲で火の海になり、逃げ場を失った自分を身をていして守ってくれた母親のことを、5歳のカッちゃんの視点で描く。悲惨な極限に生まれた愛と終わりに、心が揺さぶられる。

   きのうは広島原爆の日だった。9日の長崎原爆の日を挟み、15日の終戦の日へ向かう。コロナ禍で多くの関連行事が縮小・中止に追い込まれる中、迎えた戦後75年目の夏。祈りの8月が続く。(広)

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