7月の終わり

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2020年7月30日

  あの年から、私は7月が嫌いになりました―。4年前の7月26日、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った。19歳で犠牲になった「美帆さん」の母親が、報道機関に寄せた手記に書かれていた言葉だ。事件の翌年は7月のカレンダーを見ることができず、破って捨てたという。

   死刑が確定した植松聖死刑囚の裁判の中で、被害者が甲、乙と匿名で呼ばれることに違和感を覚え、娘が一生懸命生きた証しを残したいと「美帆」の名前を公表した。「裁判と社会に『美帆』の名と写真を出せて良かったと思っています。たくさんの方に覚えて頂き、その方々が美帆のことを思いだしてくれる時、美帆は生きているわけですから」とつづっている。

   手記は、新型コロナウイルスと闘う医療従事者への差別、アメリカでの人種差別にも触れ、「差別は容易になくならないでしょう。でも少しでも減ればいいと思います。(中略)心穏やかに過ごせる社会になればいいと願っています」と結んでいる。

   新聞やニュースを見た全国の人が美帆さんの名前を覚えた。何十年たっても、お母さんが7月を心穏やかに過ごせることはないかもしれない。でもせめて、一人でも多くの人が美帆さんの名前を覚え、あらゆる差別をなくしたいと願う母親の気持ちを心に刻む月にできたらいい。(吉)

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