希薄

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2020年7月25日

  かなり以前のことになる。自宅近くのスーパーの従業員出入り口に止められたミニパトカーに、高齢の女性が警察官に促され、乗り込むところを見た。

   普段着姿。動揺しているようには見えなかった。来店者の出入り口から十数メートルしか離れておらず、駐車場からは表情も見えた。何があったのかは分からない。当時、高齢者の万引きの増加が話題になっていた。そのうち1件の現場近くに居合わせたのかもしれない。母や祖母、父や祖父という家族内の立ち場と、万引き、容疑者という言葉が結び付きにくかった。

   警察庁が先日、2020年版警察白書を発表した。新聞の見出しは「高齢者の犯罪増加」を主題にしたものが多かった。昨年、刑法犯罪で逮捕された人のうち、65歳以上の高齢者は22%。30年前の約10倍になったという。万引きと暴行が多く、再犯率も高い。逮捕された人全体に占める高齢者の比率も10年前の6・1%から10・6%に増え、留置に際してかゆを用意したりするそうだ。インターネットで白書を見ると、特殊詐欺の被害や交通事故関係でも高齢者は目立つ位置を占め、白書はさながら高齢者白書の警察版のようだ。

   経済的な理由以外に「地域や親族との関係が希薄になったため」というのが白書の分析。まぶたに浮かぶ子や孫、親や兄弟の笑顔や悲しむ表情は、大きな道しるべになるはず。それが見えにくい時代とは―。考えさせられる。(水)

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