集客と対策を両立 伝統踏まえ国際交流も アイヌ民族文化財団理事長 常本(つねもと)照樹(てるき)さん(64)

  • コロナ時代の道しるべ, 特集
  • 2020年7月25日
「ウポポイでアイヌ民族への理解を深めて」と語る常本理事長

  道内で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されてから約半年が過ぎた。全国の感染状況に収束の兆しは見えず、3密(密集、密閉、密接)を避け、社会的距離を確保する新しい生活様式が引き続き求められる。コロナと共に暮らさなければならないこれからの時代、感染予防と経済活動をどう両立させていくのか―。各界で北海道の発展に取り組むリーダーたちに聞いた。

   白老町に12日開業したアイヌ文化の発信拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」。先住民族アイヌをテーマにした道内初の国立博物館に注目が集まる。新型コロナウイルスの感染拡大で4月の開業予定を2度にわたり延期。国の基本的対処方針などに基づき、入場の事前予約制を導入し、体験交流プログラムも大幅に見直して開業した。管理運営するアイヌ民族文化財団の常本照樹理事長は「状況の中で許される最大、多くの方に来ていただこうと努力している。集客と対策を両立させていく」と力を込める。

   ウポポイは国が200億円をかけ、アイヌ民族博物館や体験交流ホール、工房、チセ(家屋)などを整備した。1日当たりの入場者数を平日2000人、土日祝日は2500人とする一方、博物館の中は常時100人程度に抑え、平日1000人などと低めに設定した。このためウポポイに入れても、博物館を見学できない人が相次いだ。常本理事長は「博物館に入れない方の苦情も聞いている」と振り返り、「制限そのものは避けられないが、制限数は走りながら緩和も検討したい」と話す。

   年間入場者数の目標は100万人。「東京五輪も集客の大きな要素だった。客観的な状況は変わった」と分析し、達成が困難なことを認める。しかし、「多くの方に来ていただき、アイヌ民族やその歴史、文化を理解してもらうことに変わりはない」と強調。修学旅行の誘致に力を入れ、「先生が引率する修学旅行は、一般客がいっぱい来るのとは違う性格。コロナが拡大しない前提だが、感染防止と団体誘客をうまく両立できるはずだ」と期待する。

   目指すのは「アイヌ民族の社会的地位の向上」だ。政府の入国規制などで海外客の入り込みも当面期待できないが「文化の多様性を国際的に見せることも大きな存在意義。海外先住民との交流も積極的に進めたい」と意欲を見せる。「『アイヌを観光の道具にするのか』との指摘もあるが、私は逆の考えだ。アイヌ民族、文化の国民理解を促進するためにも観光を積極的に行うべき。伝統を踏まえた新しい文化を見せていきたい」とウポポイのあるべき姿を示す。

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   道内の地域紙10社が参加し、共通サイトでニュースを発信している「北海道ニュースリンク協議会」のうち、苫小牧民報、室蘭民報、釧路新聞、十勝毎日新聞、函館新聞の5紙によるインタビューを随時、掲載する。

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