大雨の日の取材で、冠水の被害が広がる住宅街の道路に普通乗用車で乗り入れたことがある。深さは20センチほどか。何とか脱出し終えてからゾッとした。
泥水だから水深が分からず、縁石も排水溝も見えなかった。止まれば動けなかったに違いない。もしエンジンが止まったら―。そんなことを考えながら数百メートル走った。KAWADE夢文庫「一番わかりやすい天気と気象の新知識」によると、車は水深10~30センチでブレーキが利きにくくなり、30~50センチでエンジンが止まる。50センチ以上になると浮いて流され、水圧でドアが開けられず閉じ込められたまま水没するそうだ。車は強くない。九州や中部地方を線状降水帯が襲った豪雨現場で、流されて水没し、横転した車をたくさん見た。車ごと流され命を失った人も多い。
堤防にも強さへの誤解がある。国が管理する河川で、氾濫危険水位を超えたのは2014年が24河川。これが18年には64まで増えたそうだ。都道府県が管理する河川はもっとひどく、59河川から411河川に急増しているという。2階まで水に漬かり家も車も濁流に流される。台風でもないのに、それほどの雨が降る時代なのだ。
「経験したことのない雨」という言葉が聞こえたら、体に染み込んでいる無事の記憶をかなぐり捨てる必要がありそうだ。道央南部は盛夏にはほど遠い天気が続く。夏の次は台風の季節。経験を再点検して次の季節に備えたい。(水)