命のつながりとは何だろう。先日、直木賞を受賞した馳星周さんの著書「少年と犬」(文藝春秋刊)を読み、そう自分に問うた。生きる者同士の出会いと別れ。そこに息づくささやかな希望が描かれた作品に、図らずも涙腺が決壊した。短編で織り成す話の中心にあるのは、人の気持ちに寄り添った一匹の犬。かつて取材で訪れた被災地の情景とも重なり、本を通じて伝えることのできる作家の奥深さを感じた。
受賞当日、馳さんは出身地の浦河町にいた。現場で取材していた本紙記者から一報が入ったのは午後4時すぎ。スマートフォンのライン着信音が鳴り、小さな画面をのぞくと(直木賞を)「とりました!」。わずか6文字の短い一文に、本社の編集局内が歓喜に沸いた。手元に送られてきた原稿には、わが事のように喜ぶ思いがつづられていた。馳さんが破顔する写真も届き、わずかでもその雰囲気が読者の皆さんに伝えられたのなら、うれしい。
人の生き方はすべて違う。作品には、それが優しく表現されていた。未知のウイルスや自然災害に人生を変えられたという人もいるが、誰もがさまざまな関わりの中で生きていると気付くことの大切さを、小説で届けたかったのではないか。命のつながりに感謝しつつ、別れを告げなければならないことも日々の中にはある。ありがとう、そしてさようなら―。その思いを忘れたくはない。(隆)