父と子

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年11月16日

 この日のため、出張用の小さなスーツケースの奥底に、ファイターズの青いユニホームをそっと忍ばせていた。CSシリーズでソフトバンクに2連敗を喫し、あとがなくなった10月18日の午後。私は居ても立ってもいられず、出張先の東京から、こっそり福岡へ飛んだ。

 ソフトバンクのファンクラブに急ぎネットで登録し、リセールに出ていた三塁側のチケットをゲット。「みずほPayPayドーム」(福岡ドーム)に直結する「ヒルトン福岡」のフロントの女性が全員ホークスのユニホームに身を固めていたのに一瞬ドキっとしながら、試合が始まる午後6時少し前には何とかチェックインを済ませた。

 部屋の鏡の前で、始球式以外では絶対に着ることのない青のユニホームに、いい年こいたおっさんがゆっくりと袖を通す。とても知人には見せられない光景。黄一色に染まった完全アウェーの福岡ドームに入るや、”敵”の熱視線が青いユニホームに容赦なく突き刺さってくる。もはや快感でしかなかった。

 試合はご案内のように、わがファイターズは貧打の末あっけなく敗退。ホークスの優勝パレードが始まり、球団オーナーの孫正義とともに登場したワンちゃん(王貞治)の姿を見て、ある男のことを思い出した。中内功。戦後の焼け野原の中からダイエーを創業、一代で5兆円の企業グループを築き、そして、すべてを失った希代の大経営者である。

 私は20代の後半、中内の番記者をしていた時期がある。来る日も来る日も博物館のように巨大な田園調布の自宅前で中内の帰りを待つ。いわゆる夜討ちというやつだ。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった中内は南海からホークスを買収、誰も予想しなかった福岡に拠点を移すことを決め、巨費を投じて日本初の開閉式ドーム球場と超高層ホテルを建設、世界のワンちゃんの監督起用にこだわり、思いを実現させた。

 1993年4月の福岡ドームのこけら落としにも立ち会った。「福岡ドームはダイエーにとってローマ帝国の繁栄と崩壊を招いたコロッセオになりかねない」と過大投資を警告する記事を書き、あとで中内にこっぴどく叱られた。ある夜、彼はぽつり漏らした。「兄の潤と弟の正は仲がよくない。潤は主力の流通業、正にはスポーツやホテルという別の事業がいるんや。西武を見てみ。堤家は清二と義明の兄弟仲が悪いからこそ、ともに事業を伸ばしている」――。剛腕の経営戦略などというものではない。そこにあったのは、息子たちの行く末をただただ案じるひとりの父親の姿だ。

 10日の午後、あんなに元気だった父が急逝してしまった。眠ったままの父の傍らで書くことになった最後の夜。にじんで時折前も見えない。大きくて、飾らない、優しい男だった。あなたの息子だったことに感謝しかない。(敬称略)

 (會澤高圧コンクリート社長)

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