イランカラプテ(こんにちは)。新型コロナウイルスが私たちの社会に大きな影響を与えている中、季節は何事もなかったかのように夏へと移り変わりました。ふと、山や野原に目をやると、高く伸びた茎に幾つもの緑がかった白色のユリの花が咲いているのを目にすることがあります。それは、アイヌ文化の中でもギョウジャニンニクと並んで「ハルイッケウ(食料の背骨=食料の中心になるもの)」と呼ばれ、アイヌ民族の食文化を支えたオオウバユリです。でも、食料とするのは花ではなく、地下のユリ根(鱗茎)。アイヌ民族はこれをトゥレプと呼び、でんぷんを取り出し、残った繊維を発酵・乾燥させてオントゥレプアカムという保存食にしたのです。
トゥレプの採取は6月下旬~7月上旬にかけて行われました。早過ぎるとでんぷんが少なく、遅過ぎると繊維が硬くなるからで、葉の根元が赤みを帯びていれば、採集できるというサインです。では、時期さえ間違わなければいいかというと、そうではありません。茎が1本立ちした株は花を咲かせるので採取してはいけません。開花した後、種子を残して子孫を残す大切な役割を果たしますし、その根にはでんぷんは含まれていないので、採っても意味がないのです。
アイヌ文化では、茎が1本立ちし、花を咲かせるオオウバユリをオッカイトゥレプ(雄)と呼び、花を咲かせないものをマッネトゥレプ(雌)と呼んで区別していました。でもオオウバユリに雄株と雌株があるわけではありません。種から芽を出したオオウバユリは毎年少しずつ大きくなり、葉の数を年々増やしながら地下のユリ根も大きく成長します。そして7年ほどかけて花を咲かせるのです。
つまり、マッネトゥレプが成長してオッカイトゥレプになるということで、雄雌が別々に存在しているわけではないのです。ですから食料とするトゥレプを採取するには、花を咲かせる前のマッネトゥレプを選ぶことになります。
しらおいイオル事務所チキサニでは、6月27日の「山のイオル野外学習」で、参加者の皆さんにトゥレプ採取を体験していただきました。かつてアイヌ民族の女性がトゥレプタニと呼ばれる棒状の掘り具を使い、トゥレプを採取した作業の大変さを感じながら、現代の私たちも食料を自然から頂きながら生かされていることを再認識してもらえたと思います。
(しらおいイオル事務所チキサニ・森洋輔学芸員)
※毎月第2、第4月曜日に掲載します。