白老町のアイヌ文化発信拠点、民族共生象徴空間(ウポポイ)が12日に開業する。新型コロナウイルス感染拡大により、2度の開業延期を経て待望のオープンだ。感染対策で入場制限や体験中止などの制約はあるが、道内観光や経済活性化の起爆剤として期待が高まる。苫小牧市の各界各層の関係者、一般市民からも熱い視線が注がれている。
岩倉市長や関係者 アイヌ文化に関心を
胆振、日高の経済活性化などに取り組む「北海道新幹線×nittan(日胆)地域戦略会議」の会長、岩倉博文苫小牧市長は「アイヌの文化が色濃く残る北の大地全体として歓迎すべき施設」と開業を喜ぶ。
特にアイヌ文化の発信に注目し、「先住民族としてこの国で歩んできた経過や民族の知恵を改めて感じ、願わくば次代を担う子どもたちにもその存在を肌で感じてほしい」と話す。
苫小牧アイヌ協会の作田悟会長(72)は「アイヌはもちろん、アイヌ以外の若い人にも関心を持ってもらいたい」と強調。アイヌ語を重視し「踊りを学ぶにも言葉が分からなければいけない。少しでも広まってくれれば」と話す。
苫小牧うぽぽの佐々木義春会長(68)も「文化を伝承する場であってほしい」とウポポイの役割に期待し、「地域で活動する小さな団体も巻き込み、ウポポイと共に伝承活動ができるようになるといい。全道、全国のアイヌや海外の先住民族も呼んだイベントを開催しては」と提言する。
苫小牧商工会議所の森本恭行専務理事も「道内観光の起点になる」と強調。市内の宿泊増などのプラス面を見込み、商議所で視察も検討している。開業当初はコロナ対策で入場制限があることに「残念」としつつも「大勢の人でにぎわってほしい」と願う。
市民からも歓迎の声 「お出掛けスポットに」
「家族みんなで絶対に行きたい」と声を弾ませるのは澄川町の主婦、後藤千晶さん(35)。子どもにポロト湖畔の美しい風景を見せたり、アイヌ文化に触れさせたりしたいと夢が膨らみ、「こんな近場ですてきなお出掛けスポットができて感激。先日も待ち切れず白老へドライブに行きました」と笑顔を見せる。
宮前町の無職、菊地チエ子さん(89)は国道36号の拡幅延長工事が終わり「きれいになってうれしい」と喜ぶ。「コロナの感染拡大で往来が増えることに不安はある」と懸念しつつも「人の往来が増えれば町が栄える。隣町なのでコロナが落ち着いたら、一度は行ってみたい」と話す。
有珠の沢町の会社員、佐々木翔哉さん(30)は「高校時代に学校の行事でポロト湖畔を散策したり、遊びに行ったりしていた」と懐かしみ、「コロナが広がり、近年は災害も続いているので、復興の象徴になってほしい」と開業を心待ちにする。
新しい人の流れで集客 苫小牧の飲食店やホテル
ウポポイ開業に合わせ胆振管内では、入場券を提示すると飲食店や観光施設で割引などの特典が受けられる「ウェルカムキャンペーン」(7月12日~9月30日)が展開される。苫小牧市内からは飲食店、ホテルなど34施設が参加予定。苫小牧観光協会の市町峰行会長は「観光の起爆剤になるし、苫小牧と白老で交流人口も増える」と期待する。
コロナ禍で外国人旅行者はほぼゼロ。当面は道内で近場の観光が主流となる見込みで、苫小牧ホテル旅館組合の佐藤聰組合長は「旅行を求める道民がウポポイに来る。苫小牧に寄っておいしい物を食べ、宿泊する人が増えてほしい」と希望する。
道の駅ウトナイ湖の駅長、西村宏基さん(53)は「コロナの影響で今年の開業は難しいと思っていたので大歓迎。道の駅を訪れる人にウポポイやアイヌ文化を知るきっかけを提供したい」と意気込む。同駅はウポポイ開業による利用増を見込み、アイヌ関連の展示や商品販売を行い、職員もアイヌ文化に理解を深めている。
コロナ禍で打撃を受けてきた海の駅ぷらっとみなと市場の代表理事、山本英誠さん(49)は「ウポポイから新しい客の流れができ、市場の集客につながれば」と思いを語る。
小中学校の教育にも一役、社会見学先で利用も
ウポポイは教育の場としても期待される。苫小牧美園小学校は社会見学の利用を検討中で、手塚敏校長は「歴史の勉強と学びを再構築する拠点になる」と見込む。感染防止で当面中止となっている体験メニューも「大きな学習効果がある」と述べる。
小中学校では先住民族としてのアイヌを学ぶ機会も増えそうで、市教育委員会の五十嵐充教育長は「(授業などの)事前、事後学習に役立つ」と話す。丸木舟など関連資料の所蔵や展示が充実している苫小牧市美術博物館との交流や連携も視野にあり「相乗効果が上がれば」としている。