中庭回廊を「舞台」として展開する本展は、人型のオブジェに対し、現代社会のほころびがもたらす「風化」に立ち向かい、光を求める人々のイメージが投影されている。回廊の床に配されたオブジェの数は千体に達するというが、理工学者・青木広宙氏(千歳科学技術大学准教授)の協力の下、そこには光技術を応用したライティングが施されており、空間の奥側中央から放たれる一筋の光によって、希望に向かって歩みを進めるかのような動的な構図が創出される。
一方、周囲に集うオブジェ群を照射する微細な光は、作者である艾沢(よもぎざわ)詳子の呼吸の間隔と同じタイミングで場所を変えながら点灯するように設定されており、見る人に祈りや瞑想(めいそう)にふける人々の気配を感じさせる。
光と影が織り成す明暗によって象徴性が高められたその光景には、昨今の新型コロナウイルスの拡散を端緒とする災厄をはじめ、現代社会にまん延する不安や苦しみの浄化とともに、復興・再生への祈りが仮託されている。芸術作品が時代や社会の諸相を映し出す鏡であるとするならば、本作も困難な現況を示唆する映し鏡といえ、同時に、幾度となくそうした労苦を乗り越えてきた人間の英知をたたえるオマージュとしても解釈できるのではなかろうか。この機会に、艾沢の深遠なる作品世界に触れていただければ幸いである。(細矢久人学芸員)
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ライティング設計:青木広宙氏
素材:ワックス、ティッシュペーパー、プロジェクター、LEDテープ、暗幕