【上】 自然で変容する作品

「風化」をテーマとした中庭展示

  苫小牧市美術博物館で中庭展示Vol・14が開催中だ。中庭展示空間を活用したインスタレーション(架設展示)を紹介するシリーズ企画で、2013年の美術館機能増設に伴うリニューアルを機にスタート。今回は、札幌在住の美術家・艾沢(よもぎざわ)詳子(1949~)のインスタレーションを紹介している。展示について、同館の細矢久人学芸員に2回に分けて紹介してもらう。展示期間は9月13日まで。

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   中庭とその回廊において、それぞれ「Weathering―風化―」および「Pray―祈り―」という2部構成による展示をご覧いただける本展は、人型のオブジェという共通の素材を用いながらも、異なる様相を見せる艾沢の作品世界に触れられる機会となっている。

   ティッシュペーパーをワックスでコーティングすることで形状を維持するそのオブジェは、本作において2千体もの数が使われたというが、人の形をかたどったものでありながらも、逆転した姿勢のまま積み重ねられているため、群衆というよりも、むしろ防波堤に砕ける波しぶきや地表に繁茂する胞子など、有機的な集合体を想起させる。

   「風化」をテーマとする本作において艾沢は、中庭という半屋外空間で長時間、オブジェを日光や風雨にさらすことにより、その姿が徐々に変容していく過程も作品の一部とみなしている。その発想の原点には、死体を外気にさらすことで自然に返す埋葬法「風葬」があったという。

   そうした死を連想させる題材と同時に、生命感を帯びた相反的なイメージが混在する本作からは、生きとし生ける者が死に至り、やがて風化を経て再生を繰り返す、いわば「生命の循環」といった根源的なコンセプトを読み取ることができるだろう。

  (細矢久人学芸員)

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   素材:ワックス、ティッシュペーパー、角材(表面にグランド、黒鉛)

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