―ウポポイで働くきっかけは。
「壮瞥町で両親が民芸店を営み、父は熊彫り(木彫り熊制作)、母は踊りをしている中で育ちました。若い頃はアイヌであることに向き合うことはなく、むしろ避けてきました。30代の時に知里幸恵銀のしずく記念館(登別市)の館長、故横山むつみさんと出会い、今までの考えが変わりました。『いつかアイヌに関わる仕事がしたい』と強く思うようになり、縁あってこの仕事に就くことができました」
―どのような準備をしてきましたか。
「これまでの準備期間は新型コロナウイルスに振り回された感じでした。オープンに向けて準備してきた体験プログラムは当面見送りとなる予定なので、今は実演解説などの用意をしています。誰が聞いても分かりやすく、少しでも興味を持ってもらえる内容にしようと、オープンまでの残り少ない時間の中で、解説内容などを調整しています」
―アイヌ文化を伝える上での苦労や工夫。
「本来なら手に触れて楽しんでもらうことを、コロナの影響で今はできない中、いかにその素材の質感を伝えるかに苦労しています。アイヌ民族の針入れ『チシポ』の実物を使ってみたり、本来あまり見ることのできない、女性が着物の中に着る下着『モウル』などを見ていただけるようにしたり。着物の裏を見せて、縫い目の美しさがいかに大切かを伝えるなど、工夫をしています」
―ウポポイで自ら伝えたいこと。
「ウポポイでアイヌ文化を身近に感じてほしい。アイヌの女性の手仕事の美しさを見てもらい、そこから興味をもっていただきたい。何よりも自分の数少ない経験や感じてきたことを、自分の言葉で伝えていく。そして、来てくれた人たちが『あー、ここに来て良かった。また来たいな』と思っていただける場所にしたい」
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新型コロナウイルスの感染拡大により、2度にわたり開業日を延期していた白老町のアイヌ文化発信拠点、民族共生象徴空間(ウポポイ)が12日に開業する。コロナ対策で当初予定していた体験事業の実施は見送られることになりそうだが、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保しながら、「見る」「聞く」を中心にアイヌ文化を伝える取り組みを検討中。ウポポイを管理運営するアイヌ民族文化財団の各担当者に話を聞いた。6回連載。