「よろしく」と言葉を添えて渡された”何か”が入った封筒。手紙か、資料か、それとも―。利害がある間柄なら、中身はおのずと分かるはずだが、受け取った数が94人にもなるとは思わなかった。中には「返すつもりで自宅で保管していた」というやからまでいるから、笑うに笑えない。前法相の衆院議員河井克行容疑者と、妻で参院議員の案里容疑者が夫婦で逮捕された参院選広島選挙区をめぐる公選法違反事件。現金を受け取ったことを認める関係者が続々と現れ、その額は約2570万円に上っているという。
ずいぶん昔のことだが、大先輩の記者から「実弾」と呼ばれる現ナマが飛び交った選挙戦の話を聞いた。内容は異なるが、今回の事件はその時代の出来事とどこか重なる。カネで人の心を操り、手にした力でさらに権力を振るうようなことが、現代で起きるとは。そこまでかき立てた背後に何があったのか、社会全体で真実を突き止めなければならない。
子どもの頃、選挙戦真っ最中の議員候補が自宅の玄関先にやって来たことがある。たまたま拾ったファイルが遊説に関わる資料で、届けたお礼にと、手に菓子折り。固辞する母に「気持ちですから」と無理やり手渡して去った。母の後ろで見ていたが、単なる感謝でないことはすぐに分かった。今なら法律違反だろう。
緩い関係がもたらすのは緩い社会。肝に銘じなければ。(隆)