教え子たちが高校を卒業するとき、決まって言うせりふがある。「もう一回このチームでアイスホッケーがしたい」。支え合い、時に衝突しながら苦楽を共にした仲間たちとの別れを惜しむ気持ちはよく理解していた。でも以前なら、私は彼らに「10年、20年後も同じメンバーでホッケーができればこんなに楽しいことはない。でもそれは二度とできない。だからこそ、貴重な3年間だったんだよ」と言い聞かせていた。
09年の冬、北海道大会の指導者懇親会で北海の畑山賢樹監督が声を掛けてきた。アイスホッケーは1923年創部の札幌の私学。「早慶戦のような定期戦やりませんか」。彼は私と同じ早稲田大卒業。付属高校、OB、大学の3部構成で熱戦を繰り広げる対慶応義塾の伝統ある一戦を経験していて、北海はOB会を結成したばかりでもあった。
対する37年創部の苫小牧東は、OB会が立ち消えになっていた時期。現役戦はともかく、OB戦で卒業生を集められるか不安はあったが、教え子たちが夢見た同じメンバーでアイスホッケーをする機会になると呼び掛けに応じた。
競技の振興、発展も願って2010年から定期戦をスタートさせた。記念すべき第1回定期戦は札幌市の月寒体育館で開催。オープニングを飾ったのは卒業生による交流試合で、両校合わせて30人ほどのOBが駆け付けてくれた。北海高在学のフィギュアスケーターによるエキシビションを挟んで現役戦へ。私自身は一種のお祭り感覚でいたが、当の選手たちは「負けたくない」と互いに気持ちのこもったゲームを繰り広げてくれた。試合後に会場を飲食店に移して懇親会を開いた。昔話に花が咲いた。
2回目から苫小牧と札幌で隔年開催を続けてきた。当初はOB会が先にできていて、現役チームも力があった北海がOB戦、現役戦共に勝利することが多かったが、徐々に苫東が盛り返すようになった。19年11月には、節目となった10回目の定期戦を苫小牧で実現できた。
これまでの戦績はOB戦が苫東の5勝3敗2分け。勝敗はもとより、かつて実業団で活躍した名選手から現役のアジアリーガー、高校卒業後から競技を始めた人まで全国から延べ300人近く足を運んで、母校のユニホームに袖を通して年代の垣根を越えた親睦の輪をつくってくれた。また、父の正も生前来場したことがあり、アイスホッケー女子日本代表で2大会連続の五輪出場を果たした大澤ちほらもベンチから声援を送っている。一方の現役戦は北海5勝4敗1分けで競り合っている。
定期戦ができてからというもの、毎年卒業生に送る言葉は変わった。「次は定期戦で会おう」。今年84回目を迎えた早慶戦のように、苫東と北海の定期戦がいつまでも続いてほしいと願っている。
(構成・北畠授)