平成元年の社会は、消費税導入とリクルート事件で揺れた。この出来事は庶民と政財界の「カネ」に対する感覚がいかにかけ離れているかを知らしめるとともに、国民の政治不信を根深いものにした。
■消費税導入
人々は4月1日から消費材やサービスに3%の消費税がかかるというので、豆腐や納豆、50円、100円の食品の買いだめに走り、3月下旬の商店の売り場は買い物客で混雑した。
消費税が実施されると、今度はチャラチャラと財布の中をかき回し、レシートの数字をじっと見詰めた。
お店の主人や店員さんには責任がないのに、レジ係のパートさんは会計をする一人ひとりに「すみません」と謝り続けた。青果店のご主人は一山250円のミカン、350円のイチゴの値段を「半端な値段はお客さんに迷惑をかけるから」と据え置いた。「100円玉を握りしめてくる子どもに消費税分が足りないなんて言えないでしょ」。商売に人情があった。
■豆腐は高く車は安く
ただ、すべての消費材、サービスが消費税分3%一律に値上がりしたかといえばそうではない。税制改正によって従来かかっていた税金の税率が下がり、消費税分の金額が増えても全体としては値下がりしたものもあった。
例えばタクシーやJRは値上げとなったが航空運賃は下がった。酒は酒税制度改正で高級酒は安くなり、大衆酒は高くなった。飲食店は料飲税が変わってレストランや高級料理店は安くなり、大衆食堂は高くなった。書籍は高くなり、家電や乗用車は安くなった。
総じて、富裕層対象のものは安くなり、低所得層対象のものは高くなった感を人々は受け「この先、消費税はどこまで上がるか」と心配した。
■リクルート事件
消費税導入の騒動が続く中で、リクルート事件で政治家に多くの逮捕者が出て、時の竹下内閣が総辞職した。
販促メディアなどを取り扱う新興企業のリクルート社が政治家や官僚らに子会社の未公開株を賄賂として譲渡し、大きな利益を与えた。受け取ったのは森喜朗元文相、中曽根康弘前首相、竹下登首相、宮沢喜一副総理・蔵相(肩書きは当時)ら90人に及んだ。カネと政治の黒い関係は、「3%」に悩む国民を大いに怒らせた。
(一耕社・新沼友啓)
《消費税の変遷》
平成元年3%→同9年5%→同26年8%→令和元年10%