生活は何も変えず、戸籍上でのみ離婚届を出す「ペーパー離婚」の言葉を初めて聞いたのは、記者3年目で夫婦別姓を考える集会を取材した時。自分の姓を変えたくない―と参加者の女性は語った。約40年も前の話だ。法務省の法制審議会が選択的夫婦別姓を盛り込んだ民法改正案の要綱を答申してからも、約30年がたつ。国連の女性差別撤廃委員会は昨年10月、日本に選択的夫婦別姓制度の導入を求める4度目の勧告を出した。
世界で夫婦同姓が義務付けられているのは日本だけだ。名義変更の負担や業績が引き継がれないなどの不便や不利益は、自民党保守派が主張する「通称(旧姓)使用の拡大」で対応できるかもしれないが、問題の本質は「実害」があるかどうかではなく、変えたくない人の権利が認められない点にあると思う。同姓を望む人の権利を何も侵害しないのに、だ。
NHKの昨年の世論調査では、選択的夫婦別姓に賛成が62%と反対27%を上回った。経団連も早期導入を提言し、与党の公明党も導入を求めている。総裁選前には「やらない理由が分からない」とまで言っていた石破茂首相は「議論の頻度を上げ、熟度を高める」と述べるにとどまっている。今月召集される通常国会で「熟度の高まり」を見届けたい。(吉)