【ワシントン時事】バイデン米大統領は3日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を中止するよう命じた。製造業を支える鉄鋼メーカーが海外企業に買収されれば、安全保障上の懸念が生じると判断。原則として30日以内に買収計画を「完全かつ永久に放棄」する措置を講じるよう求めた。日鉄とUSスチールは、法的措置も辞さない構えだ。
同盟国の企業による買収を「安保上の懸念」を理由に差し止めるのは極めて異例。日米関係のほか、日本企業の対米投資や進出に悪影響を与えそうだ。 バイデン氏の判断を受け、日鉄とUSスチールは「失望している。決定はバイデン氏の政治的な思惑のため下されたものであり、法令に明らかに違反している」と批判。「法的権利を守るため、あらゆる措置を講じる」とする声明を発表した。
バイデン氏は声明で「米国最大の鉄鋼生産者の一つを外国の支配下に置くもので、安保と重要なサプライチェーン(供給網)にリスクをもたらす」と説明。「USスチールは米国人が所有・操業し、鉄鋼労組の労働者が働く世界最高の誇り高い企業であり続ける」と訴えた。
米政府の省庁横断組織、対米外国投資委員会(CFIUS)が安保の観点から買収計画を審査したが、期限までに結果がまとまらず、昨年12月にバイデン氏に判断を一任していた。バイデン氏はこれまで、USスチールは「国内で所有、運営されるべきだ」との見解を表明していた。
日鉄は2023年12月にUSスチールを約140億ドル(約2兆2000億円)で買収すると発表。USスチールは臨時株主総会で買収計画を承認した。しかし、全米鉄鋼労組(USW)が、人員削減などへの懸念が拭えないとして反発。米大統領選を控えて政治問題化した。トランプ次期大統領は昨年12月、就任後に「阻止する」と明言していた。
CFIUSは24年9月だった審査期限を3カ月延ばし、大統領選後に先送りした。日鉄は買収計画が「米国の安保を強化する」と主張し、労働者や地元自治体、米政府への働き掛けを強化。地元では理解を示す声も上がっていたが、米政府の懸念を払拭するには至らなかった。
USスチールは、買収が実現しなければ高炉施設の休止や人員削減を迫られる恐れがあると警告。東部ペンシルベニア州ピッツバーグの本社を維持できない可能性があるとしている。