侍タイムスリッパー

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  • 2024年12月31日

  映画好きの知人が「泣けて笑える」と絶賛していたので、夫婦で見に行った。全国の劇場で好評上映中の自主制作映画「侍タイムスリッパー」。幕末の侍が落雷を受けて現代の撮影所にタイムスリップし環境の変化に戸惑いながら、時代劇の斬られ役を生業に選ぶ。粗筋に若干抵抗感を覚えたが、鑑賞後は作品全体から漂う映画愛にただ胸が熱くなった。観客が声を出して笑ったり、拍手したりする場面に立ち合ったのはいつ以来か。

   22日、苫小牧の劇場で舞台あいさつがあり、安田淳一監督は「子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで家族で楽しめる映画を作っていきたい」と語った。山田洋次監督の「男はつらいよ」が大好きで笑いのある映画を意識しているという。「若いのになぜ今、時代劇?」と当日のラフな服装から勝手に40代ぐらいと判断し質問してみると「57歳で若くは…」と断りつつ、人情深い市井を描きたかったという趣旨の答えが返ってきた。良くも悪くもSNSの時代に不特定多数が義理人情や感動を共有できる劇場の可能性を信じている。日本とは何かが問われるボーダレス時代。黒澤明作品とは違った新感覚時代劇で、日本人としてこの時代とどう向き合うべきかを考えさせる。今求めるべき豊かさとは何だろう。(輝)

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