この地で生きる

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年12月28日

 穂別についに冬が来た。

 12月半ばには2日連続で氷点下20度を下回る日があり、全国ニュースにも「むかわ町穂別」という名前が出たそうだ。「内地の親戚から”大丈夫なの?”と連絡が来たよ」と患者さんが教えてくれた。

 面白いのは、そんな話をするとき、多くの人がニコニコと笑顔だということだ。「寒くてイヤだねえ」と顔を曇らせる人はほとんどいない。「日本一、寒い日もある。それが穂別だ」と誰もが受け入れているのだ。

 ある日、ひとり暮らしの高齢の患者さんが言った。「子どもたちが札幌においでよ、と言ってくれるけど、行きたくないんだよ。穂別で生まれたんだから、穂別で死にたいんだ。先生、よろしく頼むよ」

 「生まれたところで死にたい」というその人の思いの強さに、私は胸を打たれた。私自身、これまでいくつもの場所を転々として暮らしてきたので、「人生の最後はここで」というこだわりはない。でも、穂別で生まれてずっと生きてきた人にとっては、「人生をこの地でまっとうしたい」というのは譲れない思いなのだろう。

 考えてみれば、それはとてもぜいたくなことかもしれない。見慣れた風景を毎日、目にしながら、地域の移り変わりをすべて目撃し、いろいろな出会いや別れを経験して笑ったり泣いたりしながら暮らしてきた。夏は「暑いね」と言い、冬は「寒いね」と言いながらも、それぞれの季節の良さを味わい、自分なりに工夫しながら厳しい自然に対処する。いつも何かにせかされて生きる人が多い現代で、これほどどっしりと落ち着いた生活があるだろうか。

 「頼むよ」と言った患者さんに、私は答えた。「大丈夫。私も体に気を付けて、なるべく長く穂別の診療所にいるようにするから。でも、あなたは元気だから、人生の最後なんてまだまだずっと先なんじゃないかな。」そして、「アハハ」と2人で笑い合った。

 冬の寒さはこれからが本番。きっとさらに冷え込んで、全国ニュースに再び「むかわ町穂別」の名前が出ることもあるだろう。東京の友人から「平気なの?」と連絡が来たら、「これぞ穂別の冬。あなたもぜひ来てみて」と言ってみようかな、などと考えているのである。

 (むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)

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