禁句

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  • 2024年12月25日

  日高山脈の最高峰・幌尻岳(2053メートル)への登山道は、平取町内で沙流川から分岐した額平川を遡行するコースと、もう一本、新冠町の市街地から新冠川沿いの道を、幾つかのダムや発電所を巡って登山口に至るコースがあった。市街地から3時間ほど。登山口の近くには営林署の無人の小さな収穫小屋もあった。

   楽しい夏の一夜を思い出す。その日の宿泊者は確か、札幌の学生と帯広市に滞在中の白人青年各1人。それに静内や浦河の山岳会の5、6人。北大生は岩石ハンマーを手に一人で山にこもり、一帯の岩石や地層を調査していた。白人青年は一人で十勝側から登って来て、片言の日本語で陽気に国際交流を繰り広げた。酔いが回り、北大生の指導で、松山千春さんの「大空と大地の中で」を習った。今でも、テレビやラジオから松山さんの声が聞こえると記憶は一瞬で40年ほど前に飛ぶ。高音部はますます声が出ないが、自分の中で、あれは「幌尻岳の歌」。

   日高山脈襟裳十勝国立公園が今夏、誕生した。テレビに幌尻岳の頂上付近や氷河期に削られた七ツ沼カール一帯が何度も映った。老いて病み「いつか」はもう禁句だが、記憶の中の山脈は、いつでも迎え入れてくれる。心から懐かしいと思う。改めて山脈の保護を考えたい。(水)

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