(4)苫小牧周辺で脱炭素の動き加速 先進的事業次々と CCUS拠点化実証本格化

  • この一年 2024, 特集
  • 2024年12月19日
苫小牧市やその周辺地域で今年、CCS事業化に向けた調査や実証事業の動きが加速

  2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガスの排出ゼロ)実現に向け、苫小牧市やその周辺で今年も、先進的な事業が次々と立ち上がった。二酸化炭素(CO2)を分離、回収、貯留する技術CCSの事業化に向けた取り組みや、そのCCSに有効利用の「U」を加えたCCUS拠点化実証事業など、苫小牧で本格化する事業が今後の日本をリードしようとしている。

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   23年から苫小牧地域でCCSの事業化を目指す、石油資源開発(東京)=JAPEX=、出光興産(同)、北海道電力(札幌市)は23年度調査事業で、CO2の貯留候補地を苫小牧沖に決めた。陸域の勇払油ガス田を活用する案も探ったが、国のCCS実証試験でCO2を海底の地層に30万トン圧入した実績などを踏まえ、地質構造が安定している海域に絞った。CO2は年間200万トン、総量4000万トン程度の貯留を想定している。

   3社は今年度、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の先進的CCS事業公募に応じ、10月8日付で委託契約を結んだ。来年3月まで設備の設計などの調査事業を継続し、来年度にも試掘調査を開始し、詳細な地下データや貯留可能量を把握する考え。26年度に事業化の可否を判断する見通しだ。

   国が21~26年度に展開するCCUS拠点化実証事業も、世界初の液化CO2長距離海上輸送を11月に始めた。日本CCS調査(JCCS、東京)を中核とする大手4企業・団体が共同受託し、苫小牧市真砂町の北電苫小牧発電所敷地内に「CO2輸送苫小牧事業所」を整備した。

   関西電力の舞鶴発電所(京都府舞鶴市)の石炭火力発電で発生するCO2を分離、回収、液化し、実証試験船「えくすくぅる」(1290トン)で約1000キロ離れた苫小牧に海路で運ぶ。CO2は同船で1回当たり最大800トン、27年3月までに計3万~5万トンを運び、CO2を大量輸送する最適条件などを探る。

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   苫小牧やその周辺で先進的な脱炭素事業が進む背景として、12年度から国内初の大規模プロジェクト、「CCS」の実証試験が成功したことが大きい。事業を受託するJCCSが地域の理解を得ながら、19年11月に目標だった苫小牧沖へのCO2貯留30万トンを達成した。

   さらに、エリアには道内最大の石炭火力である北電苫東厚真発電所、道内唯一の製油所である出光興産北海道製油所が立地する。市内のCO2年間排出量は推計500万トン規模とされる中、脱炭素エネルギーへの転換が至上課題となっている。

   今年6月に「えくすくぅる」視察で来苫した斎藤健経済産業相(当時)は、苫小牧で進むCCS関連事業などに「世界のロールモデルとなり得るプロジェクト」と強調した。経産省は従来から「苫小牧はポテンシャルが高く、社会実装に向けた重要な拠点」と位置付けているだけに、今後は脱炭素の進展が地域経済の活性化にどう結び付いていくか注目される。

 (今成佳恵)

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