多数の宿泊施設や飲食店を抱え、国内外の観光客を受け入れてきた千歳市支笏湖温泉地域。新型コロナウイルスの感染拡大で、外出の自粛や諸外国の渡航制限が続き、観光客が大幅に減っている。国の緊急事態宣言解除後、観光客は少しずつ増えているが、「コロナ前」の水準には全く届いていない。関係者は戻り切らない観光地の日常、取り巻く変化に対応しようと、感染防止策や業態の在り方などに工夫を凝らしている。
支笏湖地域の駐車場に入ると、マスクとフェースシールドを装着した料金を徴収するスタッフが目に入る。屋外でも感染予防に念を入れ、「思い付く対応策はすべてやりました」と駐車場を管理する自然公園財団支笏湖支部主任の佐々木香澄さん(34)。
同財団が運営する支笏湖ビジターセンターも4月18日から5月25日まで休館。再開後は館内の感染対策を徹底し、飛沫(ひまつ)を防ぐ間仕切りの設置、ラウンジなどの椅子の数削減、小まめな消毒や換気などに取り組むが、特に外国人の利用は目に見えて減った。「英語で案内することがなくなった。駐車場に入る車の数に比べて、入館する人は少ないようだ」と変化を捉える。
湖畔の温泉商店街で飲食店を営む福士國治さん(70)も「土日は家族連れが多くなったが、弁当を持参している人が目立つ。店に入らない人が多いようだ」と観光客の動きに異変を感じている。緊急事態宣言のただ中に比べると観光客は増えているが、「密」を避ける心理が働いていると推察する。
別の飲食店経営の堀順さん(59)は消費者心理を踏まえ、これまで鶏の空揚げやイモ餅など数種類だったテークアウトメニューを、弁当や丼物を含めた40種類近くに増やした。「テークアウトの需要は増えている」とみているが「本当は店の中でゆっくりと食べてほしい」と複雑な心境をのぞかせる。
カヌーを中心にアウトドア業を営む松澤直紀さん(34)は、4月下旬から5月いっぱいまで休んだ後、6月1日にツアーを再開したが、「休業中は業務の在り方を根本から考え直すきっかけになった」と言う。発想したのは従来の体験型観光客に加え、環境保全を通した支笏湖のブランド化だ。
インターネットで資金を募るクラウドファンディングで経費を調達。地域の清掃活動をまず実践した。「お客さんに戻ってもらうには、長期的に見てフィールドの環境を守ることが必要。保護と利用の両立を考えない業者は生き残れない」と語る。自然保護に重きを置いた観光に活路を見いだす。
創業100年を超える丸駒温泉旅館も苦境のさなか、新しい誘客の在り方を模索する。3~5月の予約は多くがキャンセルされ、6月の予約数も平年と比べて6~7割の減。リピーターや札幌など近郊からの宿泊客に支えられている。佐々木義朗社長(57)は「これからは新しい取り組みが必要」と強調。客室から見える風光明媚(めいび)な景観、「密」とは一線を画した環境を生かせると確信しており「アクティビティーと宿泊を結び付けるなど、新たな売り方を考えている」と前を向く。大打撃を受けた支笏湖地域の観光だが、関係者も変化と向き合いながら、積極的に変わり続けようとしている。
(平沖崇徳)