【上】解説 精緻な彫刻 カムイと対話の唯一の道具

精緻な彫刻と漆が施されたイクパスイ

  苫小牧市美術博物館では収蔵品展「イクパスイ―祈り捧(ささ)げるもの―」を6月21日まで開催している。同館の岩波連学芸員に展示について2回に分けて紹介してもらう。

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   イクパスイはアイヌの祭祀(さいし)具で、長さ30センチ幅3センチ程のへら状をしている。日本語に訳すとイク=(酒などを)飲む・パスイ=箸であり、儀礼の際に酒の入ったトゥキ(わん)にイクパスイをつけてカムイ(神)に捧げた。そのため、捧酒べら(ほうしゅべら)もしくは捧酒箸(ほうしゅばし)などと訳される。

   イクパスイに酒をつけてカムイにささげると、一滴の酒がカムイの世界では一樽にもなるとされている。また、不完全なアイヌ(人)の言葉を正しくカムイに伝える役割を持っていて、アイヌのさまざまな道具の中でカムイと対話することのできる唯一の道具ともされている。

   イクパスイは多くが木製で、まれに骨製や本州から持ち込まれた竹製のものもある。そして一面に幾何学模様から動物意匠、刀剣を模したものまでさまざまな文様が彫り込まれている。文様に決まり事はなく、おのおのが自身の彫刻技術を見せつけるかのように精緻に彫り込んでいる資料が多く見られる。イクパスイの中には漆によって着色しているものがある。これらはアイヌが彫刻を施したものを和人に託して漆で黒色や朱色に塗ってもらったもので、アイヌと和人の交流の一端を示している。

  (岩波連学芸員)

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