「感染拡大の防止にしっかり取り組んでいたのだが」―。千歳市清流の北星病院事務長、道下貴裕さん(43)は肩を落とした。同病院では入院患者2人のほか、看護師や介護職員ら計8人が新型コロナウイルスに感染。クラスター(感染者集団)に認定された。
4月上旬に市内のグループホーム(GH)「ぬくもりの里」の利用者が同病院に運ばれてきた。80代女性で発熱していた。同病院をかかりつけにしており、受け入れに選択の余地はなかったが当初から感染を疑い、個室で対応した。検査結果は陽性。同GHも後にクラスター発生が判明した。
同病院には3月下旬から、同GHの同じユニットで生活していた90代女性が入院していた。腰痛が理由で新型コロナ感染を疑わせる症状は何もなかったが念のために個室に移し、検査されることになった。結果は陽性。院内の緊張感は一気に高まった。
職員18人を検査し、看護師4人、介護職員2人の陽性が明らかになった。指定医療機関への入院や自宅療養が決まり、外来診療の休診、救急の受け入れ停止を余儀なくされた。道下さんは「職員は『自分が感染して周囲にうつすかもしれない』と不安だったと思う」と振り返る。
同病院は2月から新型コロナ対策を強化してきた。最初は面会を制限し、3月中旬からは面会や患者の外出を禁止。職員の検温や手指消毒、館内清掃ももちろん徹底してきた。最前線の医療機関として対策を徹底する中でのコロナ禍に戸惑いを隠し切れない。
同病院はクラスターを教訓に、屋外の敷地内にプレハブの「有症状者診察室」を設置。熱やせきなどの症状がある外来患者を院内に入れず、同室で医師が診察するように改めた。「感染の疑いのある患者が他の患者と接触しないようにした。怪しいと思ったらしっかり対応することが大切」。道下さんは強調する。
千歳市北斗の訪問看護ステーション「やさしい介護しののめ」でも4月、スタッフや関係者を含め6人が感染した。後に感染が判明する看護師が発熱で出勤を停止したのが4月4日、検査結果が陽性と判明して事業自体を休止したのは同13日だった。
運営する株式会社やさしい介護社長の緒方晋さん(44)は「利用者さんが待っている。陽性が判明するまで事業を止めることはできなかった」と振り返る。同ステーションは4月に開業し、看護師3人で利用者36人を訪問するなど事業を始めたばかり。感染予防の徹底は万全を尽くしたはずだった。
さらに同21日までに看護師2人とその家族、職員、利用者の感染も分かり、「看護師は『利用者を感染させていないか』と不安になった」と緒方さん。看護師は3月末まで、後に患者や職員ら45人の感染が判明する千歳第一病院に勤務していた。感染経路は判然としない。
新たな感染拡大はなかったため、6月1日に事業を再開できる見通しで「今は前を向いて進みたい」と静かに語った。
新型コロナウイルスの感染が全国に広がる中、医療機関や高齢者施設でクラスターが相次いだ千歳市。人口10万人に満たないまちで、感染者数も100人の大台に乗った。感染予防に最も力を入れる医療機関で、どのように感染が拡大し、関係者はどう向き合っているのかをリポートする。