まちなかをごみ収集車が走り抜け、ごみ袋を収集員が手際よく回収する―。何気ない日常の風景だが、新型コロナウイルスへの警戒感が強まる中、特別な感慨を持つ市民も多いようだ。「コロナに気を付けて」「感謝です」―。そんなメッセージが収集員らに寄せられることが増えたという。引き続き感染対策の徹底が求められる中、衛生環境を保つのに欠かせない仕事に注目が集まる。
苫小牧市内の家庭ごみの収集は、市が委託した苫小牧廃棄物協同組合に加盟する9社が担う。その一つ、とませい(苫小牧市新開町)は収集車5台を用意し、収集員計15人が分担して作業に当たっている。収集車1台につき3人の収集員が基本。体力も使うが、手際が大事な仕事という。
5月下旬、市内中心部の住宅街。ごみの回収拠点を巡る収集車から降りてきたマスク姿の収集員はごみ袋を次々と車両に投げ入れると、一つの拠点での作業を数十秒で済ませ、次の拠点に向かった。
約20年間同社で収集員を務めてきた廣田和吉さん(54)は「外出自粛の影響だと思うが最近、ごみが増えた。ペットボトルやプラスチック容器が目立ち、使用済みマスクも多い」と指摘した。ごみが多くなれば負担も増す。「感染の怖さもあるので、気を配ることが増えた」と廣田さん。収集前には個々で検温するなど、体調管理を強く意識する。作業中は車内の換気や消毒も繰り返して、マスク着用も徹底。1日6時間余りに及ぶ業務でマスク着用に息苦しさを覚える人は少なくはなく、夏の暑さを乗り越える工夫を検討している。
そんな中、大型連休明けに思いがけないことが起きた。多くの地域で収集員を気遣うメッセージを書いたり、手紙を張ったりしたごみ袋を出す人が出始めたという。
「ご苦労さまです コロナに負けない」―。廣田さんはそんなメッセージを撮影した画像をスマートフォンに保存して持ち歩いている。「こんなに多くのメッセージを受け取るのは初めて。とても励みになった」と笑顔を見せる。
同組合が把握しているだけで、メッセージ付きのごみ袋は10件以上。筆跡から幅広い年代が関心を寄せていることがうかがえた。中には、手作りマスクを収集員に寄贈してくれた人もいた。
仮に収集員の1人が感染すると残り2人も濃厚接触者となって収集業務に支障が出る恐れがある。このため、同組合は感染者が出ても収集業務を継続できるよう、業者間の連携の在り方を模索している。
市も動画投稿サイト「ユーチューブ」に4月末開設した環境衛生部の専用チャンネルで、ごみの正しい捨て方を紹介。「マスクやティッシュは小袋に入れて捨てる」「ごみ袋の口はしっかりと結び、袋がいっぱいになる前に出す」「ごみ捨て後に手を洗う」の3点を訴え、収集員らの不安軽減を狙う。
同組合の林廣志事務局長は「環境衛生を保つためにも、万が一に備えた対応を強化したい」と話している。
(河村俊之)