後悔なら、幾つでもある。その一つは高校野球だ。泥色に染まったぼろぼろの硬球を縫い直し、追いかける友人を見ながら、自分は安いギターをかき鳴らして、10代の3年間を終えた。
小さな高校の野球部はけっこう強く、地区大会では上位に進出することが多かった。自分は球技が苦手だった。硬球の硬さも怖かった。応援だけでなく、外野の後ろで球拾いをしたり、紅白戦の人数不足の時などには、補充要員として加わったことも覚えている。
10年ほど前、首都圏に住む、野球部の主将だったTから「帰省している」と、突然の電話。近くに住む往年のエースとマネジャーに連絡を取り、弓道部の部長も加わって酒を飲んだ。内容の記憶はないが、白髪頭を呼び捨てにし合える酒の、何と楽しかったこと。
夏の甲子園・第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まった。選抜大会に続く中止は戦争による中断を除き初めてという。新型コロナウイルスとの闘いを戦争に例えた政治家がいた。高校野球は今回も戦争に勝てなかった。
有力高校の選手や指導者の無念の表情や言葉が報道されていた。山あいの高校の、元球児たちのことを思い出した。彼らならどう考えるだろう。各地で、引退する3年生を送る大会の開催が検討されているそうだ。この数カ月、野球以外にも多くの大会の中止で、心に虚無の闇を抱えた子どもたちがいる。しっかり見守りたい。(水)