苫小牧市音羽町にある一軒家。昼時になると親子連れが次々に訪れ、庭の小屋に向かう。小窓からおにぎりや菓子が入った袋が差し出されると、親子は笑顔で受け取った。
小屋の脇にはジャガイモやレトルト食品が入った段ボール箱が置かれており、「応援ボックス ご自由にどうぞ」の貼り紙。「いつもお世話になっているから」と調味料や菓子を寄贈したり、窓の横に置かれた募金箱にそっとお金を入れたりする人の姿もあった。
NPO法人「木と風の香り」が運営する、こども食堂。2月28日からの休校期間中、菓子や軽食の無償提供を続けている。1日の利用者数は60人程度。子育て応援の意味を込めて親にも食べ物を無償で提供している。
同法人の代表で育児中の母親でもある辻川恵美さん(39)は「休校で親の生活も一変した」と話す。子どもの相手や日に三度の食事作り、家庭学習の見守りなど、休校で親の育児負担が増大。辻川さんはこども食堂を利用する子どもの言動から、「仕事をしながらや心身の不調を抱えながらの子育てに、限界がきている親の姿が垣間見えることがある」と明かす。
余裕を失った親から過度に叱られた子どもが、帰宅時間になっても「帰りたくない」とスタッフにすがるケースも。辻川さんは「いっぱいいっぱいでも周りにSOSを出せず、子どもに当たってしまう人がいるのは確か。そういう人を支えるための社会の仕組みが不足している」と指摘する。
育児ストレスを募らせている親は少なくない。美原町で小学生を含む子ども3人を育てている母親(36)は「在宅勤務になったが家では仕事がまともにできず、イライラすることが増えた」と話す。
下は1歳から上は中学生までの子どもを育てている川沿町の母親(35)も「毎日毎日、時間に追われてへとへと」とため息。職場の理解を得て在宅勤務となったが、日中は育児と家事で忙しいため、家族が寝静まった夜中に仕事をしているという。「両親も仕事をしているので頼れない。休校は仕方がないと分かっているけど、もう限界だ」とつぶやく。
日新町で月1回、子ども食堂を開いている、NPO法人寺子屋こどもの未来の山川貢代表(61)は「コロナ禍で誰もが大変な状況に陥ったため、子育て中の人の困り事に目を向ける余裕が社会から失われているのを感じる」と話す。同法人でも今月、子育て世帯に弁当を配る活動を通じ、親が抱える不安や悩みが聞こえてきたという。
山川代表は「子育ての負担は親がすべて背負うのが当たり前、という一部の人の考えが親を追い詰める」と指摘。「大変な状況の今だからこそ、『このまちで子育てしてよかった』と思えるような地域の力が求められているのでは」と訴える。
(姉歯百合子)