新型コロナウイルスの感染が広がる中、政府の専門家会議が「新しい生活様式」の実践例として挙げた在宅勤務「テレワーク」。苫小牧市内の企業でも導入の動きが出始めている。中でもテレワークに向いているとみられるIT企業、I・TECソリューションズ(表町)は迅速に対応。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現させたが、効率性の低下など課題も浮き彫りになりつつある。
同社は職場で密閉、密集、密接の「3密」を避けようと、今月から市内の従業員約150人のうち、約40人をテレワークの対象にした。システム開発やプログラミング、請求書の作成など、自宅でできる仕事を洗い出した。すべてを在宅勤務としたわけではなく、例えば自宅で3日間仕事をすれば1日出社。テレワークを重視しつつ、電話の応対や紙ベースでこなす仕事なども意識し、会社で業務をする日を設けた。
従業員同士のコミュニケーションは主にパソコンの会話機能・チャットを使い、大事な情報の共有などでウェブ会議も開く。事業戦略室製品研究開発センター副部長で、部下を管理しながらテレワークを実践する櫻庭智さん(38)は「朝はグループの3人で10分ぐらい、コミュニケーションを取ってから仕事を始める」と言う。物理的な距離が生じても、心の距離を保つよう心掛ける。
一方で「『仕事をやるぞ』となかなか気持ちが切り替わらない。長らくある習慣を急に変えるのは難しい」と実感。コロナ禍を受けた対応とあり、ノルマの設定や労務管理はあえて行っていないが「仕事の効率は下がったと思う」。職場で顔を合わせていれば簡単にできる、職場チームの簡単な軌道修正にも時間がかかる。子どもがウェブ会議に「乱入」したこともあった。
子育て中の末松桃子さん(37)も「出社している方が楽」ときっぱり。仕事とはいえ自宅にいるため、子どもを保育園に預けられないためだ。「子どもは家にいるのにかまってあげられないと、寂しがってストレスがたまる。一緒にいられる時間が増えてうれしいけど、テレワークのみだと厳しい」と語る。
同社は昨年から「働き方改革」の一環でテレワーク導入を検討してきたため、コロナ禍で迅速に対応できたが、3月は子育て中の母親ら数人が利用する程度だった。経営管理室の近藤広輝室長(52)は「コロナが広がらなければ必要性に迫られていなかった」と指摘。課題の多さも再認識している。
セキュリティー対策は最重要課題。会社と自宅をネットでつなぐと、安全面が担保できないため、画面転送方式を採用した。自宅で使うノートパソコンは必要な情報を入れない、いわば「空き箱モニター」にし、会社のパソコンにつなげる仕組み。自宅の画面上操作と会社の処理を別々で行うため、従業員の数だけ機材が別途必要になった。型落ちしたパソコンもフル活用するが負担は大きい。
ただ、仕事と生活を調和するワークライフバランスはもちろん、コロナ禍でも業務を安定して続けるBCPの観点からも、テレワークはさらに拡大させる予定。「より働きやすい環境にするために、今の経験をしっかり検証しながら進めたい」と話した。
(金子勝俊)
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