アイヌ民族の大切な木 「チキサニ」 ▶1

  • チキサニ通信, 特集
  • 2020年5月11日
白老町内のウヨロ川中流にあるフットパスコースから見ることのできるハルニレの木
白老町内のウヨロ川中流にあるフットパスコースから見ることのできるハルニレの木
森洋輔学芸員
森洋輔学芸員
森洋輔学芸員
森洋輔学芸員

 イランカラプテ(こんにちは)。白老町には「チキサニ」と呼ばれ、親しまれている「しらおいイオル事務所チキサニ」という施設があります。4年前、学芸員として着任して以降、多くの方から「チキサニって何の意味なの?」と尋ねられました。私は「チキサニはアイヌ語でハルニレの意味です」と答えますが、それは答えのようで答えではないのかもしれません。そもそもなぜ、ハルニレなのだろうかという疑問を多くの方が抱くに違いないからです。

 「チキサニ」は、アイヌ語の「チ=我ら キサ=こする ニ=木」という三つの言葉が合わさって、樹木のハルニレを意味しています。アイヌ民族がハルニレの木に穴を開けるように棒状の木を擦り合わせて火をおこしたことから、チキサニと呼ばれているとされています。

 アイヌ民族の伝承の中には、ハルニレにちなんだ物語があります。人間の国土を造った神(コタンカルカムイ)は初めにドロノキ(アイヌ語名ヤイニ)を、次にハルニレを国土に生やしました。人間に火を授けるため、ドロノキで火をおこそうとしたところ成功せず、火おこしで使ったもみくずから天然痘などの病の神(パコロカムイ)や悪神、妖怪が生まれてしまいました。そこでハルニレで火おこししたところ、瞬く間に火が付き、最高の神として尊敬される火の神(カムイフチ)が生まれたといいます。

 また、ハルニレはしばしば、とても美しい女神として伝承の中に登場します。雷の神が地上にたたずむ美しいハルニレの女神に見とれて天から落ちてしまい、ぶつかったハルニレが懐妊して人間の始祖神(アイヌラックル)を生んだという物語もあります。いずれにせよ、ハルニレはアイヌ民族にとって大切な樹木であったのです。

 しらおいイオル事務所チキサニがなぜ、「チキサニ」と名付けられたのか。それはアイヌ文化という「火」をおこして、人々にアイヌ文化への正しい理解を持ってもらい、さらには民族共生の実現という新たな地平を白老から構築しよう―との意思を示したもの、と私は考えています。

 ◇

 一般社団法人白老モシリが運営し、アイヌ民族の伝統文化体験事業を展開するしらおいイオル事務所チキサニ。森洋輔学芸員がチキサニの活動やアイヌ文化について紹介する。毎月第2、第4月曜日に掲載。

 森洋輔釧路管内白糠町出身。京都外国語大外国語学部フランス語学科卒、神戸大大学院国際文化学研究科文化人類学研究生コース終了。専攻はフランス語学と文化人類学。2016年6月から白老町のしらおいイオル事務所チキサニ学芸員。37歳。

(もり ようすけ) 

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