「こういうときだから、やれることをやらないと」。苫小牧市港町の海の駅ぷらっとみなと市場で営む飲食店「ぷらっと食堂」で力を込めた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、利用客と売上高は激減したが、休業要請の対象ではない。受けられる補助を探して市の相談窓口に足を運ぶ初めての経験もした。しかし、「何をやっても厳しい」経営環境がむしろ、スタッフ7人の雇用を守る決意を強固にした。
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ウイルスの感染拡大が深刻さを増した2月下旬から、危機感を持ってはいた。「店から感染者を出せば営業停止になる」。スタッフにマスク着用を義務付け、アルコール消毒液でテーブルを拭き、寒くても換気のため小まめに窓を開閉した。市場も入り口に消毒液を置き、トイレの手洗い蛇口を自動センサーに変えるなど衛生面を強化した。
客足はなんとか堅調だったが、鈴木直道知事が2月28日の金曜夜、「緊急事態宣言」を出すと状況が一変。通常この時期の週末は1日平均250人程度の利用があるが、29日、3月1日は約30人に減った。時間帯によっては利用客よりもスタッフの方が多いほど。「ここまで影響するなんて」。恐怖を覚えた。
あらゆる面で、やれる何かを探した。まずは週末用に仕込んだ大量の海産物。マグロやサーモンなどをさばき、特産のホッキ貝は殻からむいて下処理を済ませていた。「捨てるぐらいなら、食べてもらいたい」と原価割れで提供し、インターネット交流サイト(SNS)での情報発信もした。
週末の外出自粛で「店に行けない」という利用客の声を受け、テークアウトにも力を入れた。ホッキカレーを容器に入れて売り、ルーのみの販売にも応じた。電話で注文を受け、車のナンバーを聞き、駐車場に届けることもある。常連客から「大変だね」と声を掛けられるが、注文があるだけでも「本当に感謝」と笑顔で仕事をこなす。
団体ツアー客の予約キャンセルも20件以上に及び、平均単価の高い観光の客足は戻らない。売上高は半減程度の日が続き、市役所の相談窓口にも足を運び、わらにもすがる思いで補助を申請した。
「とにかく終息してほしい」と願うが、「国が『補償するから休め』と言えば休めるかもしれないけど、飲食店も(外に出なければならない)みんなも生活がある。『厳しい』とばかり言っていられない」ときっぱり。「ピンチをチャンスにしないと」と懸命に前を向いている。
(金子勝俊)
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新型コロナウイルスの感染拡大が市民生活に大きな影響を与えている。国が緊急事態宣言を全国に拡大するなど、未知のウイルスとの対峙(たいじ)に戸惑いも広がる。感染者が北海道で初めて確認されてから28日で3カ月。市民が何を思い、どのように過ごしてきたかを振り返り、今後を乗り切る一助にしたい。