新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が求められる中、苫小牧のタクシー業界も利用客の急減に悲鳴を上げている。3月以降の落ち込みが顕著で、前年同期に比べて半減した事業者も。売り上げ減の打開策として配達業務開始を視野に入れる会社もあるなど、市民の足や乗務員の生活を守るため、各社はぎりぎりの経営を強いられている。
苫小牧観光ハイヤー(有明町)は2月中旬から利用が徐々に減り始め、3月以降は前年比3~4割減で推移。乗務員歴30年の伊藤巻治さん(70)は「こんなに減るのは初めて」と肩を落とした。これまでは週末の午後5~10時、繁華街発着の利用がひっきりなしで、電話を受けても配車できないケースもあったが、松岡政彦さん(68)は「錦町、大町などは本当に利用がなくなった」と語る。
同社の認可台数は30台だが、道運輸局の9月末までの限定措置を利用し、うち2台を臨時休車。車両を減らせば売り上げも減るが、目先の車検代など固定費を抑制し、1台当たりの稼働率を上げるメリットがあるという。
乗務員は短時間勤務を含めて55人。歩合制がタクシー業界の基本だが、酒井文仁社長は「乗務員を守りたい」と強調する。地元タクシー会社とあって、常連客が病院や買い物などに活用ケースも多く、「市民の足を守るためここが頑張りどころ。使命感を持って乗り切る」と話した。
北海交通苫小牧支店(あけぼの町)は3月以降、利用が前年と比べてほぼ半減しており、苅谷博信苫小牧支店長は「飲食店絡みの利用が激減した」と嘆く。タクシー46台、乗務員79人体制に変更はないが「本当にぎりぎりの状態」。無利子貸し付けで乗務員の生活を下支えしつつ、一時的な休業で雇用を維持する企業に配られる雇用調整助成金の活用も視野に入れ、「会社、乗務員が一心同体で乗り切る」と力を込めた。
金星室蘭ハイヤー苫小牧支店(新中野町)も利用がほぼ半減。従業員31人に支援金を配って態勢を維持しているが「見通しが立たず、みんなが大変な状態。何とかしのぎたい」と言う。
そんな中、国土交通省が新型コロナの外出自粛要請を踏まえ、全国のタクシー事業者に飲食料品の運送、配達を期間限定で認可することを受け、同社もさっそく申請して許可を受けた。料金設定などを急ピッチで詰めており、小松文夫支店長は「出前などでの利用につながれば」と期待する。
各社は乗務員にマスク着用を義務付け、車内に消毒液を置くなどの感染対策を徹底させつつ密閉、密集、密接の「3密」を避ける交通機関の役割と利用をアピールしている。